第8章 命が宿るプレゼント(その137)
祖父が続けて火が付いたままの薪を入れてくる。
全部で5本ほどになる。
それが、壷の中で燃えている。
「み、水は入ってないの?」
哲司が訊く。
火を消すツボなのであれば、当然に水が入っているのだろうと思ったからだ。
「入ってない。」
「ん? これから入れるの?」
哲司は、後から水を入れるぐらいならば、先に入れておけば良いのにと思う。
「水は使わないんだ。」
「えっ! み、水、掛けないの?」
「ああ・・・。」
「・・・・・・。」
哲司は訳が分からない。
学校の消防訓練で消防士さんから教えてもらった。
花火や焚き火をするときには、傍に必ず水を入れたバケツを用意することって・・・。
そのイメージを根底から覆す祖父の言葉だったからだ。
「よ~し、これで終わりだ。蓋をしてくれ。」
祖父が言ってくる。
「う~ん・・・、で、でも・・・、まだ燃えてるよ?」
「ああ、分かってる。だから、蓋をして欲しいんだ。」
「い、良いの? このままで?」
「ああ・・・。」
祖父は大きく頷くようにして言ってくる。
そこまでされては、もう哲司が言う事は無い。
言われたとおりに、その壷に蓋をする。
「よし! 良く出来ました、だな。」
祖父は、哲司の手元を心配そうに見ていたが、それでもちゃんと蓋が出来たのを確認したのだろう。そう言ってくる。
もちろん、笑顔でだ。
「熱くは無かったろ?」
祖父が立ち上がるようにして言う。
「う、うん・・・。それは大丈夫だったけど・・・。」
哲司は、中でいまだに薪が燃えているのではないかとの不安がある。
だから、このままにしておいたら火事になるのではないか。
そんな怖さが付きまとっている。
「このままもうしばらくだな。」
祖父は、お釜の状態に目を凝らすようにして言う。
そして、その場を離れようとする。
「じ、爺ちゃん! こ、これは?」
そうする祖父の後姿に、哲司が慌ててそう声を掛ける。
(つづく)