第8章 命が宿るプレゼント(その136)
「お釜だ、お釜・・・。」
祖父は、そう言って台所に続く土間へと降りていく。
「ああ・・・、お釜・・・。ご、ご飯が炊けたってこと?」
哲司も、自分の聞き違いだったことを知る。
家の電気炊飯器だと、炊き上がれば音で知らせてくれるから、お釜もそんな音を出したのかと思ったのだ。
「いや、まだ完全に炊き上がったってことじゃあないんだが・・・。」
祖父はそう言いながら、かまどの焚き口のまえにしゃがみ込む。
「ぼ、僕は何をすれば良いの?」
祖父の後を追うようにして土間に降りた哲司が訊く。
どうしてか、何かをやりたくなっている。
「おおぅ・・・、そうだなぁ・・・。」
祖父はそう言いながらも考えている。
「じゃあな、その壷の蓋を開けてくれ。」
「ん? ツボって? ああ、これ?」
哲司は、祖父が指差したことで何とか理解する。
で、その蓋を恐る恐る開けて、その中を覗き込む。
「何が入ってると思う?」
そうする哲司を見て、祖父が面白そうに訊いて来る。
「う、う~ん・・・、わかんない。」
壷の中を覗いた哲司は、それでも首を傾げる。
「なんか、何かが燃えたような匂いがするだけで・・・。」
哲司は感想を付け加える。
「おおっ・・・、それだけ分かれば立派なものだ。」
「ん?」
「それは、消壷、または火消し壷と言われるものでな・・・。」
「火消しツボ?」
「そうだ。その中で燃えている木や炭の火を消すんだ。
良いか? こうして入れるんだ。」
祖父は火バサミを使って、かまどの焚き口から燃えている薪を取り出し、それをその火消し壷の中へと運び入れる。
「ま、まだ燃えてるよ。」
壷の中を見ていた哲司が言う。
入れたら、すぐに火が消えるものだと思っていたからでもある。
「ああ、それで良いんだ。後数本入れるからな。
で、爺ちゃんが良いぞって言ったら、その蓋を閉めてくれ。」
「う・・・、うん・・・。」
哲司は不安な気持の中で、ようやくそれだけを答える。
(つづく)