第8章 命が宿るプレゼント(その134)
「哲司、昨日の夜、“うふふふ、うふふふ”って、何度も笑ってたんだぞ。」
祖父は、にっこり笑って言って来る。
「ええっっっ・・・、そ、そうなの?」
哲司は恥ずかしくなる。
「どんな夢を見てたんだ?」
「う、う~ん・・・、学校のプールで遊んでた。友達と・・・。」
「そ、そうか・・・。どうりでな。」
「ん?」
「手も足もバタバタとさせてたからな。」
「そ、そうなんだぁ・・・。」
「だから、やっぱりクーラーが無いと暑いのかと心配になってな・・・。
で、しばらくは、爺ちゃん、団扇で扇いでやってたんだ。
知らないだろうが・・・。」
「えっ! そ、そうだったの? あ、ありがとう・・・。」
哲司は驚く。
「ああ・・・。でもな、それもこれも、この家だからこそ出来たことだ。
哲司はあの縁側に近い部屋で寝てたろ?
で、爺ちゃんは、仏壇のある奥の部屋だ。」
「う、うん・・・。」
哲司は、自分が寝ていた場所に視線を向ける。
「それでもな、哲司の寝息が聞こえるんだ。
“うふふふ”って笑ったのも聞こえるんだ。
そして、暑いのか、盛んに寝返りを打っているのも分かるんだ。
まるで、すぐ傍にいるかのようにな。」
「・・・・・・。」
「つまりは、この家の造りってのは、そうして一緒に暮らしている家族のことが何でも分かるようになってるってことだ。」
「・・・・・・。」
「家族が住むには、本当に便利な造りなんだ。」
「・・・・・・。」
「今の洋風の家は、個人のプライバシーとか何とか言って、それぞれの部屋を閉じた造りにしてある。
爺ちゃんは、あの造りが嫌いなんだ。
息が詰まる気がする。」
「だ、だからなの?」
哲司は、ふと思ったことを口にした。
「ん? 何のことだ?」
「爺ちゃんが、僕の家にあまり来たがらないのは・・・。」
「う~ん・・・、まあ、それもあるかな?」
祖父は、少し考えるようにしてから、そう答えてくる。
それでも、それが理由のすべてだとは言ってこない。
(つづく)