第8章 命が宿るプレゼント(その131)
「そうだなぁ・・・、お母さんは、割とはっきり言ってくる子だったな。
“こんな事があって、頭にきた”とかな・・・。」
祖父は、宙を睨むようにして答えてくる。
「へぇ~・・・、そうだったんだぁ・・・。」
哲司は頷けるものがある。
「だからなのかも知れんな?」
祖父が口をすぼめて言う。
「えっ! な、何が?」
「お母さんは、哲司が何にも言わないって溢してた。
それって、本当なのか?」
「うっ、う~ん・・・。」
哲司は答えにくい。
正直に言えば、「そうだね、いちいち言ってないよ」が正解だろう。
学校から帰ると、「お帰り、今日、学校どうだった?」と一応は声を掛けられる。
それも、毎日同じパターンでだ。
「う、うん・・・、特には・・・。」
それが哲司の常套句だった。
いちいち考えなくっても、その言葉だけは口から出せた。
そして、鞄を置いたら、またすぐに外へと出て行く。
何しろ、遊ぶ約束があったからだ。
余程の大雨で無い限り、傘を持ってでも遊びに行っていた。
家にいたくはなかった。
「どうやら、そのとおりらしいな。」
祖父は、そう言って、困ったような顔をした。
「・・・・・・。」
哲司は何も言わない。
「だからな、哲司がそういう性格だってことを理解しなければ・・・。
爺ちゃん、お母さんには、そう言うんだが・・・。」
「・・・・・・。」
「それでも、親ってのは、自分の子供の状況だけは分からないと行けない。
それが、親の義務だし、権利でもある。」
「・・・・・・。」
「それなのに、お母さんは、哲司が何も言わないから・・・と。
困ってたぞ。」
「・・・・・・。」
哲司は、「そんなことを言われても・・・」とは思う。
「そこに、現代の家庭事情があるんだろうな。」
祖父は、まるでテレビに出てくる何かの評論家のような言い方をした。
(つづく)