第8章 命が宿るプレゼント(その129)
「そ、そうだなぁ~・・・。
今の人間が、今の爺ちゃんみたいに昔の事をちゃんと思い出せれば良いんだがなあ・・・。」
祖父は、何とも分かりづらい話をする。
「昔のことって? ・・・・・・。」
哲司は、心配になってくる。
祖父は、本当にさっきの話を思い出してくれたんだろうかと・・・。
「学校だけじゃあないな・・・、それは。」
「ん?」
哲司は、相変わらず不安げだ。
「学校のクラスの中でもそうだが、それ以前に、家庭の中でもだ。」
「?」
「ちゃんとした意思疎通、つまりは、本音で話せていない。
哲司も、そうじゃあないか?」
「ん?」
「言いたいことをちゃんと言えてるか? お父さんやお母さんに。」
「う~ん・・・。」
「もちろんな、我侭を言えってことじゃあない。
ただ、お父さんやお母さんも、学校の先生と同じで、どう言えば哲司と本音で話せるかが分ってないんじゃあないのかなぁ~。」
「・・・・・・。」
「何かあると、上から言ってないか?」
「う、上からって?」
「ああしなさい、こうしなさい。それは駄目って・・・。
言わば、命令するようにだ・・・。」
「う・・・、うん。」
哲司は、答えにくいとは思ったものの、相手が祖父だったからそう答える。
「それを哲司は当たり前だと思ってるんだろう?」
「う、う~ん・・・。」
哲司は、答えられない。
そういうことを意識して考えたこともなかった。
「確かにな、爺ちゃんが子供を育てていた頃、つまりはお母さんが子供の頃なんだが、爺ちゃんも今のお母さんと同じように、上から物を言ってたんだ。」
「えっ! じ、爺ちゃんも?」
哲司は、それこそ意外に感じた。
こうして祖父と話していて、そうした威圧感をまったく感じていなかったからだ。
だからこそ、家では言えないことでも、祖父にであれば何でも話せそうな気がしていた矢先だ。
「ああ・・・、そうだ。
でもな、今と違うのは、そうしてひとつひとつ話さなくっても、親ってもんは、子供のことは手に取るように分かっていたってことだ。」
「ん?」
哲司は、どうしてか引っかかるものがあった。
(つづく)