第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その37)
「えっ?・・・僕が“うん”と言うって、・・・・・、一体、どういうこと?」
哲司は、思い当たることがない。
マスターからも、「そうした過去があることが分っても許せるのであれば、是非、孫娘と付き合ってやって欲しい」と言われただけである。
そこには、言葉には出なかったが、当然に「子供をどうするのか」ということは解決済みだとの前提があると思われた。
ただ、自分の意思ではない状況下で、結果として「妊娠」に至る行為が行われた事実だけを許せばいいと考えたのだ。
「だから・・・・・。この子の話。」
奈菜は、そう言って自分の腹部を撫でる。
「そんな話は聞いてないよ。」
哲司は毅然とそう言う。
これは事実だから、明確に答える。
「ちょっと待ってて・・・。」
奈菜はそう言い残すと、席を立ってカウンターの方に足を運ぶ。
マスターに確かめるつもりらしい。
哲司は目だけで、その姿を追っている。
奈菜がカウンターの前に行った。
そして、中にいるマスターに何事か言っている。
時折、哲司のほうをちらちらと見てくる。
マスターがこれまた何事かを話している。
そして、奈菜に、カウンターの前においてある少し背の高い椅子に座るよう勧めているようだ。
だが、奈菜は納得していないようで、その椅子に座らないで、一言二言投げるように返してから、また哲司のいる席の方へと戻ってくる。
「ごめんね。早とちりして。
店長が、全てを話したから・・・って言ったものだから・・・。
もう、てっきり、てっちゃんにも話が伝わっていると思っちゃった。
本当に、ごめんなさい。」
奈菜は、席に座ってから、一気にそれだけの言葉を立て続けに並べた。
「・・・・・・・・・・・」
奈菜の勘違いであることだけは哲司にも理解できたが、改めて「まだ聞いていない話」があるのだと気がつかされる。
だが、その内容は想像も付かない。
(つづく)