第8章 命が宿るプレゼント(その128)
「ところで・・・、何の話をしてたっけ?」
祖父が手を洗う哲司に訊いて来る。
「えっ! ・・・?」
哲司は、振り返った姿勢のままで固まってしまう。
そう、その問いに答えられなかったのだ。
「爺ちゃん、耄碌してきてなぁ~・・・。」
祖父が困った顔で言ってくる。
「そ、そんなこと・・・。」
哲司は即座に否定する。
モウロクって言葉は知らなかったが、簡単に言えば「ボケてる」と同じような意味らしいということだけは感じていたからだ。
決して、そんな爺ちゃんじゃあないと思いたかった。
「ああっ・・・、そ、そうだ!」
哲司が手をパンと叩く。
そう、思い出したのだ。直前の話をだ。
「子供って、昔と変わってないって話だったよ・・・。」
哲司が嬉しそうに祖父に報告をする。
「おおっ、そ、そうだったなぁ・・・。」
祖父はそう言ったものの、具体的なことまでは即座に思い出せないようだった。
「じゃあ、戻ろうか。」
そう言って、祖父が母屋に向かいだす。
哲司はそれに続く。
「話をするのが下手くそになってるって・・・。
爺ちゃん、そう言ってた・・・。」
哲司は一足早く、その場面を思い出していた。
そして、それをそのように表現することで、祖父が先ほどの話に戻ってくれることを期待した。
あのままでは、あまりに中途半端である。
ところがだ。
それを聞いた筈の祖父なのだが、何の反応も見せずに裏口から母屋へと入って行く。
そこまで聞いても、先ほどの話題が思い出せないのだろうか?
哲司は不安になりつつ、その後ろを追う。
哲司が部屋に戻ると、祖父は先ほどと同じ椅子に腰を下ろそうとしているところだった。
哲司も同じようにして、先ほどまで座っていた椅子に座ろうとする。
「おう、お陰で思い出した。」
祖父は、哲司が椅子に座った途端にそう言った。
哲司は、何とも言えない嬉しさを感じた。
そして、にっこりとする。
(つづく)