第8章 命が宿るプレゼント(その127)
「えっ! 爺ちゃん、ど、どこに行くの?」
哲司が腰を浮かせる。
「いやいや、ションベンだ。
爺ちゃんぐらいの歳になると、ションベンが近くなってなぁ・・・。」
祖父は苦笑いをしながら答えてくる。
それでも、移動することを止めはしない。
「ああっ! だったら、僕も・・・。」
哲司は、それと分かって、自分にも尿意があるのを思い出す。
「あははは・・・。良いだろう、哲司と連れションだ・・・。」
祖父がツッカケを履いて裏口から出る。
そして、哲司がその後ろを追いかける。
昔ながらの古い農家の家だ。
トイレは、母屋とは別棟となっていた。
哲司は、最初、このトイレに行くのが嫌いだった。
別棟なのだから、当然に、いちいち履物を履いて行かなければならない。
まだ昼間は良いのだが、夜ともなると、闇の中を行かなければならない。
それが哲司には怖かったのだ。
それでも、だからと言ってトイレに行かない訳には行かない。
幼稚園の頃には、泣いて誰かに付いて貰って行った。
小学校3年生になった今でも、いきがってひとりで行きはするが、怖いと思う気持はあまり変わっていなかった。
「あれ? もう、終わり?」
祖父の排尿に要した時間は意外と短かった。
多分、1分も掛かってはいないだろう。
後ろで順番を待っていた哲司が驚く。
小学校でも、皆、もう少しは待たされる。
「ああ・・・、もう済んだ。」
祖父は、そう言って哲司と交代する。
じょんじょろり~・・・。
哲司の排尿はそこそこ長かった。
と言っても、いつもとそんなに変わらない。
子供って、限界が近づくまではトイレに行かないものだ。
「おおっ! 随分と出るなぁ~。」
手を洗っていた祖父が後ろから言ってくる。
「だ、だって・・・、しばらくしてなかったから・・・。」
「この暑さだからなぁ・・・。身体の水分の殆どが汗になっているんだろう。」
祖父は、そう解説してくる。
「う、うん、そうかもね。」
哲司は、こうしてする祖父との会話が、どうしてか楽しく思えた。
(つづく)