第8章 命が宿るプレゼント(その125)
「う、う~ん・・・。」
イジメの当事者ではない哲司は、その問いには答えられなかった。
「良いか、哲司は、イジメをする子は強くって、イジメを受ける子が弱いんだって思ってるのかもしれんが、さっきも少し言ったとおり、それは大きな間違いだ。」
祖父は、冷たいお茶を飲み干して言って来る。
「ん?」
哲司は、飲みかけたお茶が喉に引っかかりそうになる。
「実は、その逆なんだろうな。」
「ええっ! ぎゃ、逆?」
「そうだ。イジメをする子ってのは、自分が弱いと思っているからするんだ。
言うなれば、恐れだな。」
「オソレって?」
「怖いと思う気持だ。
その相手の子の存在を怖いと思うからなんだ。
ほら、昔からよく言うだろ?
弱い犬ほどよく吼えるって・・・。」
「・・・・・・。」
その言葉は聞いたことがある哲司だったが、それとイジメをする子とがどうしても繋がらない。
「それと同じなんだ。
弱い犬はただむやみやたらにキャンキャン吼えるだけなんだが、弱い子はそれすらも出来なくなってる。
だから、他の人間がいないところや見えないところでイジメをやる。」
「・・・・・・。」
「その一方で、イジメを受ける子ってのは、本当は強いんだ。
もちろん、体力的にってことじゃあない。
我慢強い子なんだろうな。
だから、少々のことでは泣き言を言わない。」
「そ、そうなのかなぁ・・・。」
哲司は、祖父の言葉を肯定できない。
やはり、「弱いからいじめられるんだ」という防御本能がそう言わせている。
「だからな、その最初の時点で、周囲の子や先生がそれに気が付いてやれば、今、社会問題になっているほどの大きな歪みにはならなかった筈なんだ。」
「・・・・・・。」
「だから言ってるだろ?
イジメなんて、昔からあったんだ。
でも、昔は、今ほどにエスカレートしなかった。
つまりは、イジメを苦にして自殺するような子は出なかったってことだ。」
「ど、どうして?」
哲司は、その部分はどうしても聞いてみたくなる。
「それは、クラスの皆が、自分たちは仲間だという意識が常にあったからだ。」
祖父は、この部分を、どうしてかゆっくりと言って来る。
(つづく)