第8章 命が宿るプレゼント(その124)
「う、う~ん・・・。」
哲司には、そうした記憶はなかった。
ルールと言えば、それはやはり担任教師からの指示だ。
「あいさつをしよう。」
「遅刻をするな。」
「教室では静かに。」
「教室内では暴れるな。」
「喧嘩するな、皆仲良くしろ。」
「イジメは駄目だ。イジメられたら先生に言って来るように。」
「宿題を忘れないように。」
「掃除当番はちゃんとやるように。」
そうしたことは、別に書いて張り出されているものではない。
その都度、何度も言われるだけだ。
それでも、「どうしてだよ?」と文句を言う子はいない。
それが当たり前だと思っているのか。
そのくせ、そのルールを破る子が後を絶たない。
事実、哲司もそのルールをよく破る。
他の事は何とか守れるが、「宿題を忘れるな」だけはどうしても駄目だ。
もちろん、わざとそうしているつもりは無い。
本当に「つい、忘れてしまう」のだ。
「ルールって、先生が決めてるよ。」
哲司は、自分がその一部を守れていないことには触れないようにして答える。
「そ、そうか・・・。やっぱり、宛がい扶持なんだなぁ・・・。」
祖父は、その答えが出てくると予想していたように言う。
「ん? アテガイブチって?」
哲司はその言葉が分からない。
「つまりはだ、先生から与えられた物だってことだ。
生徒達は、黙ってそれに従うだけってことだ。
文句も言わずに・・・。」
「・・・・・・。」
それは駄目な事なのだろうかと哲司は思う。
「なるほどなぁ・・・。だから、クラスの中でイジメが起きたりするんだな。」
祖父は納得をするかのように大きく頷いて言う。
「えっ! だ、だからなの?」
哲司は、まさかと思う。
「そうだろうな、きっと。クラスのルールが、子供たちのものになっていないんだ。
先生に言われるから、そのルールを破れば先生に叱られるから・・・。
そんな気持があるから、イジメだって陰に隠れるようになる。
そう、皆に、知られないようにしてやるんだな。
違うか?」
祖父は、改めて哲司の眼を見て、そう言ってくる。
(つづく)
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