第8章 命が宿るプレゼント(その122)
「だから、クラスの皆と仲良くしなきゃ行けないってこと?」
哲司が祖父と同じテーブルに行ってから訊く。
「そうだなぁ・・・。先生や親はそう言うんだろうな。
でもな、爺ちゃんは、誰とでも仲良くしろとは言わない。
それが出来れば理想なんだが、人間ってのは、そんな良く出来た生き物じゃあない。
それこそ、100点満点には程遠いのが実態だからな。」
祖父は、哲司に冷たいお茶を入れてくれながら言う。
「ん? だ、だったら・・・。」
「嫌いにならないように努力をすることだ。」
「嫌いにならないように?」
「ああ・・・、全員を好きになれって言ったって、そうは行かないだろ?
だから、少なくとも嫌いにならないようにすることが大切なんだ。」
「・・・・・・。」
「嫌いだと思うと、その子がやることなすことまで、何もかもが嫌いになってくる。
それが高じると、その子を憎たらしく思うようになる。
それで、今、問題となっているイジメが起きる。
爺ちゃんは、そう思ってるんだ。」
「・・・・・・。」
哲司は、クラスの中のある特定の子ふたりを思い出す。
そう、哲司のクラスでも、そのイジメに近いものがあった。
「昔から、イジメってのはあったんだ。」
「ええっ! そ、そうなの?」
「ああ・・・、ただな、明らかに違うのは、今のように陰湿じゃあなかった。」
「インシツって?」
「う~ん・・・、陰に隠れてやるってことだ。
言うなれば、一番卑怯なイジメだな。」
「ひ、卑怯?」
哲司は、その意味は何となくだが分かった。
正々堂々としていないことだ。
「昔は、分かりやすかった。
すぐにぶん殴っていたからな。」
「ええっ! な、殴ったの?」
「ああ、だから、その当事者だけではなく、周囲にいる子もそれが分かったもんだ。」
「そ、それで?」
今だったら、誰かが先生に言い付けて、すぐに先生が飛んでくる事になるだろうと哲司は思った。
「仲裁に入る奴が出てくるんだ。」
「チュウサイって?」
「う~ん、つまりは、いじめる子といじめられる子との間に割って入るんだ。」
「だ、誰が?」
「もちろん、そのクラスの誰かだ。」
「誰かって・・・。学級委員とか?」
「いや、必ずしもそうじゃあなかったんだな。」
祖父は、冷たいお茶を一口飲んで言葉を続けてくる。
(つづく)