第8章 命が宿るプレゼント(その121)
「う~ん・・・、そうなのかなぁ~?」
哲司は、まだ納得が行かない。
今のクラス、別に哲司が選んだメンバーではない。
学校が勝手に決めて貼り出すだけだ。
「お前は何組だ」と・・・。
「そのクラスの中でだ。哲司は、一定の役割をちゃんと果たしているってことだ。」
祖父は、頷くようにして言う。
「ん? ぼ、僕は、別に何かの委員や班長でもないよ。」
哲司は単純にそう答える。
祖父が言った「一定の役割」を、そうした何かの役だと思ったからだ。
「あははは・・・。そうか、哲司は、学級委員でも班長でもないのか。
でもな、爺ちゃんが言った一定の役割ってのは、別にそういう役のことを言ってるんじゃない。」
「じゃあ・・・。」
「良いか? さっきも言ったが、クラスにはいろんな子がいる。
でもな、どの子ひとり欠けても、それはクラスとしては成立しないんだ。
つまりは、30人のクラスだったら、その30人がちゃんと揃って翌年1学年上がれることがクラスの目的なんだ。」
「クラスの目的?」
「ああ、そうだ。
そうしたちゃんとした、はっきりとした目的があるから、皆が共同で勉強したり運動したり遊んだりするんだぞ。」
「・・・・・・。」
「そうしたことは、家族の中と同じなんだ。いや、日本という国と同じなんだ。」
「ええっ! ・・・。」
哲司は、頭が混乱する。
「よ~し! これで、後はお釜が鳴くまでほって置けば良い・・・。」
祖父は、両手を叩くようにしながら、かまどの前で立ち上がる。
「・・・・・・。」
哲司は、今、祖父が何を言ったのかさえ分からなかった。
そう、言わば、右の耳から入った言葉がそのまま左の耳から出て行ったようなものだ。
それほど、その前の話に強烈な印象を受けていた。
「ご苦労さんだったな。ちょっと、一服するか?」
祖父はそう言いながら、土間から台所へと上がっていく。
そして、冷蔵庫から冷えたお茶を出してくる。
哲司も、それを見て、喉が乾いていることを思い出した。
(つづく)