第8章 命が宿るプレゼント(その119)
「ん? 勉強のことじゃないの?」
哲司はそう問い返す。
だったら嬉しい。
「まあ、それも含めてということなのかも知れんが・・・。」
祖父は、こう前置きをしてから、話を続けてくる。
「良いか? 人間に、完璧な人間ってのはいないんだ。
学校のテストのように、100点満点はあり得ない。」
「・・・・・・。」
哲司は、「やっぱりテストのことか?」と思いつつ、黙り込んでしまう。
「クラスで一番勉強が出来る子であっても、もう小学校3年生ぐらいだと、そう毎回毎回100点は取れないだろ?
これから高学年になると、いや、中学、高校と進むと、ますますそれは難しくなる。
ましてや、いろんな科目がある。
当然に、好きな科目もあれば、嫌いな科目も出てくるだろう。
そのすべての科目で毎回100点満点を取るなんてことは余程の天才でなければ出きゃあしない。
つまりは、100点満点が取れなくって当たり前なんだ。」
「そ、そうなんだ・・・。」
哲司は、少しはほっとする。
「それと同じで、100点満点の人間なんて、この世にはいやしないんだ。
皆が、それぞれに足りない部分を持っている。
つまりは、自分じゃ出来ないものがあるってことだ。」
「・・・・・・。」
「人間には、得手不得手がある。
つまりは、得意なことと、不得意なことがあるってことだ。
哲司は、どうも勉強は不得意なようだが、体育は得意なんだろ?
体育の成績だけはいつも4か5だとお母さんが言ってた。」
「・・・・・・。」
哲司は、「余計な事を・・・」と母親への恨み言が口を突きかける。
「それと同じで、哲司とは逆で勉強の方はそこそこ出来ても、どうにも体育って言うのか? 身体を動かす事が苦手な子もいる。
哲司のクラスにも、そんな子、いないか?」
「う、うん・・・。いる。」
哲司は、ある特定の子の顔を思い出す。
身体は哲司より大きいのだが、何しろ、かなり太っている。
勉強は哲司よりはるかにできるのだが、これが体育の時間ともなれば泣きそうな顔をする。
「そうした子からすれば、哲司の運動能力は羨ましくて仕方が無い筈なんだ。
ああ・・・、あんなに速く走れたら良いのになぁ~ってな。」
「そ、そうなのかなぁ・・・。」
哲司は、口ではそう言ったが、内心では「きっとそうだろうな」と思っている。
「哲ちゃんって、走るの速いよね。」
そう言ってきたときのその子の顔がはっきりと思い出せる。
(つづく)