第8章 命が宿るプレゼント(その114)
「は、早く次の薪を・・・。」
祖父は、そう言って、動きが止まっていた哲司にパッパをかけてくる。
「う、うん・・・。」
哲司は、我に返って、また薪を抱きかかえるようにして持っていく。
「哲司、さっき、言ったよなぁ・・・。」
「ん? な、何のこと?」
哲司は、持って来た薪を祖父の足元に置きながら問い返す。
「僕は、苛められるほど弱虫じゃあないって・・・。」
「う、うん。」
哲司は、その点ははっきりと意識をしていた。
「でもな・・・。イジメを受ける子って、必ずしも、つまりは皆が皆弱虫だって考えるのは間違ってる。」
「ん? ど、どうして?」
哲司は納得できない。
やはり、弱虫だから苛められるのではないか。
現役の小学生としては、その実態から、そう感じざるを得なかったからだ。
「弱いからイジメられる。」
そうした意識が哲司にはあった。
「だ、だって・・・。強い子って、そうしたイジメになんか遭わないもの・・・。」
哲司の頭には、クラスや同学年での何人かの顔が浮かんでいた。
「じゃあ、哲司も強い子なのか?」
祖父は、手で、次の薪を持ってくるように指示しながら訊いて来る。
「う、う~ん・・・。そ、それは・・・。」
そう真正面から言われると、哲司も「そうだ」とは言えない。
少なくとも、周囲からそう思われているとは言いがたい。
体格的にも、腕力的にも、精神的にも・・・だ。
「哲司がイジメに遭ってないことは良いことだ。
爺ちゃんも、哲司のために、それは良いことだと思う。
でもな、哲司がそうしてイジメに遭わないって言うのは、哲司の気持の中に、人を思いやる温かい気持があるからなんだ。
そこを間違っちゃいけない。」
「ん? 温かい気持?」
哲司は、「そんなもの・・・」と思った。
ひとつには、自分がそうした気持を持った子だという意識は無い。
そして、もうひとつには、そんな「温かい気持」だけでイジメから逃れられるとは思っていなかったからだ。
非現実的だと思った。
「哲司が苛められないのは、そうした気持の哲司をちゃんと理解してくれる友達が周囲にいるからだ。
そうは、思わんか?」
祖父は、哲司の顔を覗き込むようにして言って来る。
(つづく)