第8章 命が宿るプレゼント(その113)
「これからは強火にして、一気に炊くんだ。
薪、もっと持ってきてくれ。爺ちゃんがそれで良いって言うまでだ。」
祖父は、哲司が持って来た薪を焚き口にどんどん入れていきながら言う。
「う、うん、分かった・・・。」
哲司は、その火に尻を追われるようにして、また土間の端まで行く。
「哲司の学校じゃあ、イジメってのは無いのか?」
薪を手に取る哲司の背中に向かって、祖父がまた話題を変えてくる。
「う~ん・・・、あるような・・・、ないような・・・。」
哲司は、ふと手を止めてそう答える。
それでも、どうしてこの場面で祖父がそれを訊いてくるのかは不思議に思わなかった。
「そ、そうか・・・。じゃあ、やっぱりあるんだな?
で、哲司は、大丈夫なんだな?」
「イジメられてないかってこと?」
「それもそうだし、その逆も無いかってことだ。」
「ん? 逆?」
「つまりはだ、哲司は苛める側にも立ってないんだなってことだ。」
「う、うん・・・。僕、そんなに弱虫でもないし、悪い子でもないよ。」
哲司は、その点だけは力説をする。
もちろん、本心からだ。
悪戯やズルはしても、友達を苛めるようなことはしない。
卑怯だと思っている。
「そりゃあな、哲司はそう思ってるんだろうが・・・。」
「ん? ち、違うってこと?」
「必ずしもな。」
「カナラズシモって?」
「哲司にはそのつもりがなくっても、相手の子が哲司に苛められたと思う事だってあるからな。
そういうことだ。」
「そ、そんなあ・・・。」
「もちろん、爺ちゃんは哲司が暴力を使う子だとは思っちゃあいない。」
「・・・・・・。」
哲司は、一瞬ドキリとする。
暴力と言うほどのものではないが、喧嘩をすれば取っ組み合いだって辞さない哲司だ。
身体の大きさには自信は無いが、すばしっこさ、つまりは俊敏さにおいては、そうそう負ける気がしない。
だから、いざとなれば、手だって足だって出す。
「でもな、暴力ってのは、何も、殴ったり蹴ったりすることだけじゃあないんだ。
さっきの話に戻るんだが、言葉だって、その使い方によっちゃあ、実際に殴ったり蹴ったりする以上に相手を傷つけることなるからな。」
祖父は、呆然とする哲司を手で招くようにしながら言って来る。
(つづく)