第8章 命が宿るプレゼント(その108)
「それからテレビだな。」
祖父はまた新たなものを取り出してくる。
「テ、テレビ!?」
哲司は、これまた「テレビをよく見ろ」と言われるのかと思った。
そう、本と同じようにだ。
それならば、頑張って見るよと答えられると思った。
「あれが、日本語を駄目にした。」
「ええっ!」
哲司は、思わぬ祖父の言葉に目を丸くする。
「昔のアナウンサーってのは、正確な日本語を話していた。
そう、いわゆる標準語ってやつだ。」
「ひょうじゅんご?」
哲司は、その言葉を知らなかった。
「そうだ。全国、どこに行っても通じる日本語ってことだ。
そのお陰で、田舎の子でも、ちゃんとした日本語が使えるようになったんだ。
いや、日常生活では使わなくっても、ちゃんとした場ではそうした標準語で話すべきなんだってことを学んだんだ。」
「・・・・・・。」
「その教育的効果は大きかった。
喋れなくても、テレビのお陰で毎日のようにその標準語、つまりはちゃんとした日本語を見聞きできたんだからな。
それだけ、視野が広くなったってことだ。
行ったこともない土地のことでも、ああして映像とちゃんとした説明がなされれば、実際にその場に行かなくっても、その土地のことをある程度知ることが出来たからな。」
「う、うん・・・、それはそうだね・・・。」
だったら、やっぱりテレビは見るべきなんだと哲司は思った。
「ところがだ・・・。」
祖父は、そこで一旦話を区切るようにする。
「ん? それって、駄目なことなの?」
まさか? と思う哲司が訊く。
「ああ・・・、最初のうちは良かったんだが・・・。」
「?」
「いつの頃からだろうか・・・。
その肝心要のアナウンサーまでもが、下手な日本語を使い始めた。
まあ、“親しみのある言葉で”という側面があったのかも知れんが、今じゃあ、まともにニュースの原稿すらも読めない奴が殆どだ。
アナウンサーがタレント化してしまってる。
アナウンサーが人気を気にするようになったら、もうオシマイだ。
当初はあったであろう、日本の文化レベルを高めるといった崇高な理想なんてどこかへ吹っ飛んで、ただただ視聴率を稼ぎたいがための娯楽番組ばかりを流すようになった・・・。」
祖父は、そう言って唇を噛んだ。
その横顔に、哲司は言葉が出なかった。
(つづく)
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