第8章 命が宿るプレゼント(その105)
「・・・・・・。」
哲司は言葉にならなかった。
火が持つ、その強烈なエネルギーのようなものに圧倒されたのかもしれない。
「確かに、火は怖いものだ。
何もかも燃やしてただの灰にしてしまうからな。
だからこそ、その特徴をよ~く知った上で、それを人間はちゃんと使いこなさなければいけないんだ。」
祖父の言葉が哲司の頭の上を行く。
「う・・・、うん・・・。」
「それが出来るのは、人間だけなんだ。
どんなに賢い動物だって、この火を自分の意思で使える生き物はいない。
それだけ、火ってのは人間が生きていくうえでなくてはならないものでもある。」
「う・・・、うん・・・。」
そうは答えるものの、哲司には今の祖父の言葉には実感はなかった。
先ほど、祖父は、火は水や空気と同じだと言った。
確かに、哲司も、水は毎日使うし、毎日飲む。
そして、空気もいつも吸っている。
だから、それがないと人間は生きていられないってのは感覚として分かる。
それでもだ。火は別だろう。そう思うのだ。
火を使わなくっても、哲司は日々暮らしている。
「だから、本当は、哲司ぐらいの年齢になれば、自分ひとりでこの火が使えるようになっておくべきなんだ。」
祖父は、まるでそうした哲司の思いが分かっているように言葉を続けてくる。
「それなのに、今の大人たちは、それをちゃんと教えない。
教える前に、子供が失敗をすることを恐れる。
そして、子供の周囲から、その火を取り上げてしまっている。」
「と、取り上げる?」
「マッチやライターを子供の手の届くところに置かないようにだ。」
「な、なるほど・・・。」
そう言われると、哲司にも分かりやすい。
「確かに、子供の火遊びが原因の火事もあるし、それによってその子供だけではなく他の人の命を奪うこともあるだろう。
でもなぁ・・・。
だからと言って、子供に火を使わせない、つまりはちゃんとした火の扱い方を教えない方が、結果としてもっと大きな問題を引き起こしているような気がするんだ・・・。」
「ん?・・・。」
「嘘だと思うかも知れんが・・・、日本での火災の原因のトップは放火なんだぞ。」
「ええっ! ほ、放火って・・・、あの放火?
で、でも・・・、それって、悪いことなんでしょう?」
「そうだ。そのとおりなんだが・・・、その放火が火災の原因の一番だってのは事実だ。
しかも、それは子供がやるんじゃない。
大の大人がやってるんだ。」
「・・・・・・。」
哲司は驚きのあまり、ただ息を飲む。
(つづく)