第8章 命が宿るプレゼント(その104)
「木はちゃんと生きてるんだ。
そのために、その木の命を支えるために、この枯れ枝は地面に戻ろうとしたんだ。
葉っぱだってそうだろ?
花だってそうだろ?」
祖父は、その先の言葉を用意しているかのように、楽しげに言う。
「葉っぱ? 花もなの?」
哲司は、1本の枯れ枝を手にして訊く。
「ああ・・・、桜の花だって、春になったら咲いて僅か10日ほどで散ってしまうだろ?」
「う、うん・・・。」
哲司は、小学校の校庭にあった桜の木を思い浮かべる。
「それでも、その桜の木はちゃんと生きていて、その翌年にも、同じようにして綺麗な花を見せてくれるだろ?」
「う、うん、そうだね・・・。」
「それと同じなんだ。
桜の花は、来年の花のために咲いて散る。
そして、こうした枝は、来年伸びてくる若い枝のために地面に戻るんだ・・・。」
「ふ~ん・・・、そ、そうなんだ・・・。」
哲司は、分かったような、それでいてどこか分っていないような感覚で言う。
それでも、だからと言って、難しい事を言われたとは思わなかった。
何となくだが、祖父が言いたいことが伝わってきたように思うからだ。
「も、もう少し奥にだ。」
哲司が枯れ枝を焚き口に置くようにしたのを見て、祖父が言ってくる。
「だ、だって・・・。」
「熱いからか? それとも・・・。」
「・・・・・・。」
哲司はそれに答えないで、一旦は自分が突っ込んだ枝を引っ張り出そうとする。
入れ直そうと思ったのだ。
と、手にした小枝には、既に火が付いていた。
そう、先の方が燃え始めていたのだ。
「わぁっ! ど、どうしよう・・・。」
哲司が思わずそう叫ぶ。
「哲司、慌てるな!」
祖父の厳しい声が飛んでくる。
「そのまま、もう少し奥に入れれば良いんだからな。
こういう風にだ。」
いつの間にか、祖父の手が哲司の肘を掴んでくれていた。
そして、そこを上手く使って、哲司の腕をもっと先まで伸ばさせる。
「よし! ここで手を放せ。」
哲司は、祖父によってコントロールされているとは思いつつも、その祖父の一声で小枝を放す。
一段と火が大きくなったのか、顔全体が熱さを感じた。
(つづく)