第8章 命が宿るプレゼント(その101)
「おうおう、汗、一杯掻いちゃって・・・。」
哲司の身体を背後から支えるようにしていた祖父が言う。
「う、うん・・・、そ、そうだね。」
哲司も、ようやくその事実に気が付く。
それこそ、手に汗を握った感じだった。
「どうだ? 簡単だろ?」
祖父は、かまどの焚き口を覗き込むようにしながら言って来る。
哲司の緊張を解きほぐすかのように、ゆっくりと、そして優しくだ。
「う、う~ん・・・。」
哲司は中途半端に答える。
とても「簡単でした」とは思えていない。
まだマッチ棒を持っていた右手が震えている。
マッチ箱を持っていた左手は悴むように動かない。
「これで、哲司も立派な男の子だ。」
「ん?」
「マッチで火が付けられるようになったからな。」
「ど、どういうこと?」
哲司は、言われている事が分からない。
「昔からな、火を弄ぶと、つまりは火遊びをすると寝小便をするって言われたもんだ。」
「ね、寝小便?」
「オネショだ。」
「オ、オネショ!」
「つまりはだ。逆に言えば、寝小便を卒業した年齢になれば、火の使い方を覚えろってことなんだ。」
「火の使い方?」
哲司は、「火を使う」っていう感覚が分からない。
「昔は、電気もガスもなかった。
そうした時代は、明かりにも火を使ったし、もちろんこうした料理にも使った。
さらに言えば、戦争にも使ったんだ。」
「戦争?」
「ああ・・・、敵の城や砦に火をつけて燃やしたんだな。」
「な、なるほど・・・。」
哲司はテレビか何かで見た戦争の場面を思い出す。
「火は、便利なものだし、人間が生きていくうえで、なくてはならないものだ。
だから、水や空気と一緒なんだな。」
祖父は、ひとつひとつそのポイントを押さえるようにして説明してくる。
「一緒?」
哲司は、少し疑問に思った。
火と水は正反対なもの、相対するもの。そんな感覚があったからだ。
それと、水や空気は自然界にあるが、火はそうではない。
そうした印象も強くあったからだ。
(つづく)