第8章 命が宿るプレゼント(その100)
「じゃ、じゃあ・・・行くよ!」
またまた、哲司は自分に気合を入れるように言う。
「よ~しっ!」
背後の祖父が応じてくる。
哲司が先ほどより少しだけ手に力を入れて動かす。
と・・・、確かな手ごたえとともに、その指先にあったマッチ棒が青白く光ったように思えた。
そして、一瞬のうちに、そこから火が燃え上がる。
今度は、赤い火だ。
「おおっ!」
「おう、出来たじゃないか・・・。」
ふたりの声がほぼ重なるようにして飛び出してくる。
「よ~しっ! それで良いんだ。」
祖父は、そう言ったかと思うと、そのマッチ棒の火を自分の手で覆うようにする。
「ん?」
哲司は、祖父が何をしようとしているのが分からなかった。
ただ、ここで下手に動いたら駄目だという思いだけがあって、マッチ棒とマッチ箱を持った両手をそのままに固定する。
「よ~し・・・、大丈夫だ。
それで、この火をな、ここに入れるんだ。」
祖父は、そう言いながらも、哲司の身体ごとかまどの焚き口へと傾けていく。
そこには、小枝などの下に新聞紙が丸めて入れられていた。
「・・・・・・。」
哲司は黙ったままで言葉が出ない。
「その新聞紙に近づけるんだ・・・。」
祖父は、哲司の腕を後ろから支えるようにして動かしてくる。
哲司にも、ようやく祖父がやろうとしていることが分かってくる。
「もう少しだ。辛抱しろよ。」
「・・・・・・。」
「よし、火が付いた。マッチ棒を放して良いぞ。」
「・・・・・・。」
哲司は、言われるままに指を離した。
それでも、その指先にはマッチ棒の感触が残っていた。
仄かに、火から感じた熱さも伝わってくる。
「ほ、ほら・・・、上手に出来たじゃないか・・・。」
祖父は、まるで自分の事のようにほっとした声で言ってくる。
「う、うん・・・。」
哲司は安堵感と充実感の両方を感じている。
(つづく)