第8章 命が宿るプレゼント(その99)
「ええいっ!」
哲司は小さく声を掛けた。
そうでもしなければ、なかなか動き始められない気がしたからだ。
「よしっ!」
哲司の気合が通じたのだろう。
祖父が添えている手に少しだけ力を加えてくる。
「パチッ!」と音がした。
哲司の脳裏には、先ほど祖父がやって見せたように、そのマッチ棒の先から火が燃え上がる光景が浮かんだ。
だが・・・。現実は、そうとはならなかった。
「惜しい! もうちょっとだったのになぁ~。」
祖父がそう言って残念がる。
当の本人である哲司よりも残念に思ったかのようにだ。
「ん? あれ?」
哲司は、ある意味ではほっとした。
で、大きな深呼吸をする。
「う~ん・・・、もう少し強く擦るべきだったかな?
怖いと思ってやると、どうしても力が半減するからな。」
祖父は、そう解説してくる。
火が付かなかったのは、哲司の気持の中に「怖い」との思いがあるからだと。
「じゃあ、もう一度だ。
さっきより、少しだけ早く手を動かすんだぞ。
そうすれば、きっと上手く行く。
やり方全体としては決して間違って無いからな。」
祖父が激励をしてくる。
「う、うん・・・。もう少し早く?」
「ああ、そうだ。こっちの手を、もう少しだけ早く動かすんだ。」
祖父はそう言って哲司の右手を掴んでくる。
そう、マッチ棒を持つ手だ。
「う、うん。分かった。」
哲司は、イメージを作ろうとする。
「肩の力を抜け。そんなに力は要らないぞ。」
祖父はそう感じるのだろう。
哲司の両肩を自分の胸で押さえるようにして言ってくる。
「・・・・・・。」
哲司は、黙って頷く。
「じゃあ、やってみな?」
哲司の決心を後ろから押すように祖父が言う。
(つづく)