第8章 命が宿るプレゼント(その98)
「マッチ棒はな、親指と人差し指で、こう持つんだ。」
祖父は、固まってしまった哲司の指先を撫でるようにして言ってくる。
そして、哲司が持っていたマッチ棒の角度を変えてくる。
「・・・・・・。」
哲司は、成すがままにされている自分の指先を黙って見ている。
これから始まるであろう先ほどの光景が瞼の中を支配しているからだ。
「そうだ、そうだ・・・、それで良い。」
祖父は哲司のマッチ棒の持ち方をそう肯定してくる。
少しでも、哲司の不安を和らげようとしているようだ。
「それでな・・・。」
祖父は、そう言って哲司の手に自らの大きな手を添えてくる。
「マッチ箱はこう持つんだ・・・。」
祖父が、哲司の左手にマッチ箱を持たせてくる。
「・・・・・・。」
依然として、哲司はそうする祖父に答える言葉が見つからない。
「マッチ箱はしっかりと、そして、マッチ棒は軽く持つんだ。
でな、こういうふうに動かすんだ。」
祖父は、まるで空を切るかのように哲司の手を動かせる。
そう、野球選手がバッターボークスに入る前にやる素振りのような感じでだ。
しかも、それを2度3度と繰り返してくる。
「どうだ? 分かったか?」
哲司の耳元で祖父が訊いて来る。
「う、うん・・・。何となく・・・。」
哲司はようやっとそれだけを答える。
「じゃあな、爺ちゃんが手を添えているから、哲司、自分でやってみな?」
「ぼ、僕が?」
「ああ・・・、後は実際にやってみるだけだからな。
何でもそうだが、こうしたことは理屈じゃあない。
実際に自分でやってみることが大切なんだ。
そのことが、火を使いこなす事に繋がっていくんだからな。」
「う、うん・・・。分かった・・・。」
哲司は覚悟を決める。
もうここまで来れば、逃げるわけにも行かないだろうと思った。
「よ~し! じゃあ、やってみな?」
祖父が、哲司に添えた手に力を入れてくる。
「じゃ、じゃあ・・・やるよ?」
哲司は、先ほどから繰り返された素振りの感覚を思い浮かべながら言う。
「ああ・・・、いつでも良いぞ。」
祖父の声が頼もしく響いてくる。
(つづく)