第8章 命が宿るプレゼント(その97)
「マッチ棒をこう出すだろ?
そしてな、この頭の部分をここで擦るんだ・・・。」
そう言ったかと思うと、祖父はマッチ棒の頭の部分をマッチ箱の横に擦り付ける。
と、何もなかったマッチ棒の頭が突然に燃え上がった。
「わっっ!!! ・・・。」
哲司が思わず身を反らす。
と、同時に、全身に電流が走ったように感じた。
そう、まさに、ビリビリとだ。
別に、火が怖いわけではない。
家でもガスコンロの火を間近で見たこともあるし、それこそ誕生日に出てくるケーキの上のローソクに火が点っているのも間近で目にしている。
それでもだ、何もなかったところにいきなり火が出てくるのを見ると、まるでマジックでも見たかのような驚きがあったのだ。
「どうした? 怖いか?」
祖父は哲司の表情をじっと見るようにして言ってくる。
「う、ううん・・・、こ、怖くは無いけど・・・。」
哲司は負け惜しみを言った。
火は怖いとは思わないが、火が突然に燃え上がることには明らかな恐怖があった。
「じゃあ、こっちに来な。」
祖父は意識してか如何にも優しげに言ってくる。
そして、自分の懐のスペースを指差してくる。
「・・・・・・。」
哲司は言葉が出なかった。
話の流れからすれば、きっと、今祖父がやったとおりのことをさせられるのだろう。
そう思うだけで、もう何も言えなくなっていた。
それでも、身体は自然と祖父の傍に行く。
もう頼れるのは祖父の存在だけだった。
「哲司、さっきのマッチ棒はどうした?」
祖父が訊いて来る。
「ん? さっきのって?」
哲司の頭は、既にほぼ真っ白になっていたようだ。
今でもじっとその指先に摘まんだままとなっているマッチ棒の存在を忘れている。
「おお、ちゃんと持ってるじゃないか・・・。」
祖父は安堵したように言う。
「じゃあな、それで火をつけてみよう。」
「こ、これで?」
哲司が改めて指先のマッチ棒に視線を向ける。
まるで、自分の指先に火が付くような気がする。
新たな恐怖心が沸いてくる。
(つづく)