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第8章 命が宿るプレゼント(その96)

「中からマッチ棒を出してみな。」

祖父は、指先でマッチ箱を押すようにしながら言う。


「・・・・・・。」

初めてマッチ箱を手にした哲司はまるでうわの空だ。

今までは、「それ触っちゃいけません」と、触れること自体を禁止されていたような物だ。

そう明言された記憶もなかったが、かと言って、気楽に触れる物でもなかった。

それだけ、未知の物だったとも言える。


「ここを押すの?」

哲司は、祖父が指で押したことで少しだけ開いたマッチ箱を不思議そうに見ている。

まるで引き出しのようになっている。


「ああ・・・、もう少し押すんだ。」

「こ、こう?」

哲司の細い指がマッチ箱の端を押していく。

と、中から、頭の部分が赤く固められたマッチ棒が並んでいるのが見える。


「1本出してみな。」

「ぼ、僕が出しても良いの?」

「もちろんだ・・・。」

「・・・・・・。」

そう言われても、マッチ棒を探りに行く哲司の指先は微妙に震えていた。


「だ、出したよ・・・。」

哲司がほっとしたように言う。

ようやっとの思いで、そのうちの1本をつまみ出していた。


「その箱の横に、ザラザラとした紙が貼ってあるだろ?」

「う、うん・・・。」

そのことには気がついていた哲司である。

手に持たされたときから気にはなっていた。


「その紙、今はどうなってる?」

「ど、どうって? 

ああ・・・、なんか、擦れたような傷が付いてる。」

哲司は見た印象をありのままに口にする。


「だろ? それが、火をつけた跡だ。」

「えっ! そ、そうなの?」

「ああ・・・。

じゃあ、哲司は、どうしたら火が付くのかって知らないのか?」

「う~ん・・・。」

哲司は答えられない。


正直言って、誰かがマッチ箱で火をつけるのを傍で見た経験は無い。

ただ、テレビだったと思うのだが、そうした映像を間接的に見た記憶はあった。

「へぇ~・・・、こうして付けるんだ」と思ったことだけは覚えている。


「じゃあ、爺ちゃんがやって見せるから、よく見てな。」

祖父は、そう言ったかと思うと、哲司の手からマッチ箱を引き取った。




(つづく)





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