第8章 命が宿るプレゼント(その94)
「ん? ・・・・・・。」
哲司は返事に困った。
まさか、こうしてふたつの別個な話題を同時に話して来られるとは予想していなかった。
どっちの話に、先に返事をしようかと思う。
「マッチって・・・、使わせてもらったことが無いし・・・。」
まずは、ひとつ目の話題にそう答える。
「そ、そうか・・・。」
祖父は、ひとつ大きく頷いただけだった。
「で、10万分の1って・・・。」
哲司は、立て続けてそうも付け加える。
「触ったら駄目だって言われてたのか?」
祖父は、掌でマッチ箱を弄ぶようにしながら訊いて来る。
「う、うん・・・。それに・・・。」
「それに?」
「家に、マッチってなかったような・・・。」
哲司は、ここ数年、家の中でマッチ箱を見たことがなかった。
マッチを使う場面にも出くわしてはいない。
「じゃあ、ライターか?」
「う~ん・・・、どうなんだろ? 知らない。」
哲司は、生活空間を思い浮かべたものの、そのライターさえも見たことがなかった。
「誕生日にケーキが出るだろ?」
「う、うん。」
「それには、ローソクが乗ってるだろ?」
「う、うん・・・。」
「電気を消して、そのローソクに火をつけるだろ?
そして、哲司がそれを吹き消すだろ?」
「う、うん・・・。そ、そうだね。」
「そのローソクの火は?」
「分からない。お母さんが台所で付けてから持って来てくれるから・・・。」
「そ、そうか・・・。」
「・・・・・・。」
哲司は、どう言ったら良いのか分からない。
「じゃあ、爺ちゃんが許すから、ここでマッチを使ってみるか?」
祖父は、少しばかり考えた後、小さく何度か頷きながら言ってくる。
そして、手にしていたマッチ箱を哲司に向けて差し出してくる。
「う、うん・・・。」
哲司は、そう答えるしかない。
もちろん、ちゃんと使える自信は無いのだが・・・。
(つづく)