第8章 命が宿るプレゼント(その93)
「い、一杯食べたの?」
哲司は、その光景が眼に浮かんで、再度確認するかのように言う。
「ああ・・・、腹一杯にな。いや、胸一杯だったのかもしれんな。
泣きながら食べてたからな。
母親の服の端っこをじっと握ってな・・・。」
「ほ、ほんと、良かったねぇ・・・。」
哲司は、本心からそう思った。
「な、哲司にも、その子の気持が分かるだろ?」
祖父がかまどの前で立ち上がって言ってくる。
「う、うん・・・、何となくだけど・・・。」
哲司はその祖父の顔を見上げるようにして答える。
「だから、さっきも言ったとおり、食欲ってのはその人の精神的な状態が強く影響するんだ。
美味しい、不味いってのも、そうした気持が強く左右する。」
「・・・・・・。」
「その子は、ここでの最初で最後の飯が、死ぬほど美味かったんだろうと思う。
だから、それから10年ぐらいしてやって来たとき、その時に握り飯を食ったのをちゃんと覚えていた。
当時はまだ3歳だったのにな・・・。」
「へぇ~・・・、それは凄い・・・。」
「そうだな・・・、10万分の1なのにな・・・。」
祖父は、静かな口調でそう言った。
「ん? 10万分の1って?」
哲司は、しばらくしてからそう問い返す。
何度考えても、その意味が分からないからだ。
「あははは・・・。そりゃあ、分からんわなぁ・・・。」
祖父はにっこり笑った。
「お、教えてよ。」
哲司が食い下がる。このままでは他の事に移れない。
「哲司は、マッチで火が付けられるのか?」
祖父は、かまどの傍にあったマッチ箱を手にして言ってくる。
「ん? マッチで?」
哲司がオウム返しに言う。
「できる」とは言い難かった。
何しろ、自分でマッチを使ったことが無い。
「人が、一生の間にする食事の回数だ。」
祖父は哲司の顔を見ながら、そう言ってくる。
どうやら、先ほどの「10万分の1」の話らしい。
(つづく)