第8章 命が宿るプレゼント(その92)
「へぇ~・・・。」
哲司はそうとしか言えない。
初めて聞く話だ。
「その子には、実は2歳上のお兄ちゃんがいてな。
そのお兄ちゃんが怪我をして入院したんだ。
で、その間だけって約束で、その子をうちで預かったんだ。
何でも食べるから、大丈夫だと言われてな。」
「そ、それで?」
「ところがだ、その子、来た夜からご飯を全然食べない。
嫌いなものは食べなくっても良いから、好きなものだけを食べなさいって言ったんだが・・・。」
「駄目だったの?」
「ああ・・・、お茶を少し飲んだだけでな・・・。
そのまま、寝てしまったんだ。」
「・・・・・・。」
「まあ、子供のことだから、腹が減れば食べるようになるだろうと気長に考えたんだが、どっこい、そうは行かなかった。
その翌日も、またその翌日も、ご飯を食べようとしない。
お菓子だったら食べるかと子供たちのおやつを与えてみるんだが、それにも興味を示さない。」
「・・・・・・。」
「で、とうとう4日目には熱を出して寝込んでしまったんだ。」
「びょ、病気?」
「そうかも知れんと、慌てて医者のところへ連れて行った。
そうしたらな、その医者が診察後にこう言ったんだ。
“お母さん恋しい病だ”ってな。」
「えっ! 恋しい病?」
「ああ、お母さんから離されたんで、それでご飯を食べられなくなったんだってな。
熱も、それが原因だって・・・。
どうすれば良い?って医者に聞いたら、お母さんの手元に返せば、すぐに治るさって・・・。
で、すぐに母親に電話を掛けたんだ。
こんな状態だってな。」
「そ、それで?」
哲司も、その先が気になってくる。
「その翌日、母親が迎えに来た。
大変だけど、上の子も私の子供、この子も私の子供って言ってな。
で、結局はそのまま上の子が入院している病院に連れて帰った。」
「そ、そっかぁ~・・・。」
哲司は、他人事ながら、ほっとするものを感じた。
「帰る直前に昼食を出したんだが、その子、その時にはビックリするぐらいに食べたんだ。
たかが握り飯と、うどんだったんだけど・・・。」
祖父はにっこり笑ってそう締めくくる。
(つづく)