第8章 命が宿るプレゼント(その90)
「ああ・・・、最近、特にな・・・。」
祖父は否定をしてこなかった。
「ど、どうして?」
哲司は、そう言われて、ますます気にかかる。
「もう歳だしなぁ・・・。それに・・・。」
「それに?」
「やっぱり、気が緩んでるのかもしれんな。」
「ん?」
哲司は、祖父が言う意味が分からなかった。
「おう、そんなことより・・・、これだこれだ・・・。」
祖父は、お釜の中を指差して言ってくる。
「・・・・・・。」
哲司は、はぐらかされた気持になる。
かと言って、今の話を再度切り出すだけの勇気は沸かない。
「じゃあ、これから飯を炊くことにしよう。」
祖父は、そう言ったかと思うと、そのお釜を両手で持って、土間の方へと降りて行く。
「ん? 爺ちゃん、どこに行くの?」
「哲司も付いて来い。」
「う、うん・・・。」
哲司も祖父の後を追いかける。
祖父がお釜をかまどの上に置く。
そして、横においてあった木製の蓋をお釜に乗せる。
「爺ちゃんも久しぶりだ。ここで炊くのは・・・。」
祖父は、そう言ってかまどの縁を軽く撫でるようにする。
「いつもは?」
哲司が訊く。
「昨日までは、電気炊飯器だ。
哲司のお母さんに、かまどで炊くかと言ったんだが、もう上手く炊けるかどうか自信が無いって言われてな。
だから、電気炊飯器で炊いたんだ。2回に分けてな。」
「そ、そうだったんだ・・・。
でも、家で食べてるご飯より美味しかったよ。」
哲司は正直に言う。
本当にそう思っていた。
「それは、大勢で食べたからだ・・・。」
「大勢で?」
「ああ・・・、ご飯を食べるって言うのは、人間の根幹的な行動だからな。
それを共にすることで、力が沸くんだ。
感性も鋭くなる。だから、美味しく感じるんだ。」
「へぇ~・・・、それでなの?」
哲司には、必ずしもそうだとは思えないものがあった。
(つづく)