第8章 命が宿るプレゼント(その89)
「それが、哲司の良いところでもあるし、欠点でもある。
そういうことだな。」
祖父は、納得をするのか、何度も頷きながら言う。
「良いところ?」
哲司は、自分にとって耳触りが良い部分だけを捉えて問い返す。
「ああ・・・、だけど、欠点でもある。」
祖父は、哲司のそうした気持が分かるのだろう。
ちゃんと付け加えるべきことを再度言ってくる。
「・・・・・・。」
哲司は、グーの音もでない。
「懸命に爺ちゃんの話を聞いてくれるのは嬉しいしありがたい。
だけどな、その一方で、30分経ったら教えてくれって頼んでいたのを綺麗に忘れていたのは罰金もんだ。」
「ば、罰金?」
哲司は、その言葉に驚く。
「そうだろ?
爺ちゃん、確かに哲司にそう頼んだろ?
時計の時間まで確かめてもらったはずだ。」
「う・・・、うん・・・。」
「それなのに、哲司はそれを忘れた。」
「う、うん・・・、そうだね。」
「いいか?
今日から、爺ちゃんと哲司は一緒に生活をするんだ。
言わば、短い間でも、家族なんだ。」
「家族?」
「ああ、そうだ。
家族ってのは、共に生活をするという社会の最小単位なんだ。」
「・・・・・・。」
「難しいことを言いたくはないが、その家族の中では、例え子供であっても、それなりの役割ってのが与えられている。
無理な事は言われていない。
それぞれの子供に、その年齢や能力に見合った役割があるんだ。
だから、哲司にも、そうした事を頼んだんだ。」
「・・・・・・。」
「約束ってのは、別に友達や第三者と交わすものじゃあない。
家族の中でも、互いにそうした約束を繰り返す事で生活が成り立っているんだぞ。」
「・・・・・・。」
「爺ちゃんが哲司に頼んだんだ。
それは、爺ちゃんが忘れたら困るからだ。
米を研いでから30分以上そのままにしておくと、炊き上がったご飯はべちゃべちゃなものになる。
それは、それを食べる爺ちゃんにとっても哲司にとっても嫌なことだろ?」
「じ、爺ちゃんも忘れたりするの?」
哲司は、その言葉がやけに気になった。
(つづく)