第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その33)
だが、奈菜が最初に発した言葉がそれである。
「お腹の子供をどうしようか?」
哲司がまったく念頭においていなかった言葉である。
まさか、それを自分に投げかけられるとは思ってもいなかった。
「奈菜ちゃんは、どうしたいの?」
哲司は周囲に、とりわけカウンターの向こうにいるマスターに気を遣った。
より一層、声を落として訊く。
この時点で彼女がこのように言う以上、まだ結論は出されていないと受け取るべきなのだろうけれど、本当にそうなのだろうか?
戦前生まれの祖父であるマスターが話してくれた中では、この点については一切触れてこなかった。
哲司はそれを「既に処分する方向で意思決定がされている」と読んだ。
当の本人の意向を別にすれば、周囲は当然に「子供は堕ろす」と考えるのが常識である。
ひとつには、奈菜がまだ高校生だからである。
これから大学か短大なのかは知らないが、やはり進学を目指すのだろう。
そうした状況で、子供を産んで育てることなど考える余地も無い。
さらには、その父親がどこの誰であるかも分らないのだ。
つまり、このままでは私生児が生まれることになる。
そうしたことを、このマスターや店長、さらには奈菜の父親が許すはずが無いと思うのだ。
「私は・・・・・、私の赤ちゃんだし・・・・・、できれば・・・・・、産みたい・・・って思ってる。」
奈菜は、区切り区切りだが、一言一言をはっきりと言った。
「それって、お父さんやここのマスターは知っているの?」
哲司は、九分九厘、奈菜だけの胸の中にある話だろうと感じたから、そう確認をする。
「うん、私がそう思っているってことは知ってる。」
「反対されただろう?」
「うん、特にパパはね。何度も叩かれた。」
「そうだろうなぁ。」
「てっちゃんも反対?」
「・・・・・・・・・・・・・」
ここまできて、哲司は口を閉ざした。
常識的には、当然「反対だ」と言うべきである。
奈菜の気持は分らなくは無いが、やはり父親やここのマスターが主張する大人の理論の方が選択肢としては正しいだろうと思う。
哲司はしばらくの間、じっと奈菜を見ていた。
そして、ポツリと言う。
「僕が反対したら、奈菜ちゃんはどうするの?」
(つづく)