第8章 命が宿るプレゼント(その87)
「う~ん・・・、当時は、そんな兄弟もあちこちにいたしなぁ・・・。」
祖父は、顎に手を添えるようにして言ってくる。
「ん?」
哲司は、祖父が言った「当時」という言葉に戸惑いを覚えた。
「だから、さっきも言ったとおり、あの“サザエさん”っていう漫画が描き始められたのは昭和21年だ。
戦争が終わった翌年だ。
その時から、ほぼ現在のテレビ漫画と同じ設定だったんだ。」
「んんん?」
哲司は、言われている事がよく理解できない。
「つまりはだ、サザエさんはもう大人で、カツオとワカメは小学生だったってことだ。
違うのは、サザエさんがまだ結婚してなかったってことかな?
だから、最初はマスオさんやタラちゃんは登場しなかった・・・。」
「そ、そうだったんだぁ・・・。それで?」
哲司は、今の祖父の説明では、自分の疑問に答えていないと思う。
それで、その先を要求する。
「終戦直後の家族ってのは、そうして今では考えにくい家族構成だったっていう背景があるんだ。」
「ん?」
「昔は、子供は5人ぐらいいるのが当たり前だったんだ。
国も、“富国強兵”と言ってな、子供を沢山産むことを奨励したんだ。
それだけ将来の国を支える国民が多くなるってことだからな。」
「ふ~ん、そうなんだ・・・。」
「ところがだ。戦争があったろ?」
「う、うん・・・。」
「それで大勢の兵隊さんが死んだし、アメリカ軍の爆撃を受けて、一般の市民も随分と死んだんだ。」
「う、うん。」
それは学校で聞いたように気もする哲司である。
「だからな、間にいた兄弟が戦争で死んだりすると、そうして歳の随分と離れた兄弟だけが残るってこともあったんだ。」
「ああ・・・、なるほど・・・。」
「だが、戦争が終わって翌年に描かれた漫画だ。
作者の長谷川町子さんも、そうした事情には触れにくかったんだろうと思うよ。」
「・・・・・・。」
「どこかの家族をモデルにしていたのかもしれないなぁ・・・。」
「・・・・・・。」
哲司は、毎週のように見ているあのアニメに、そうした時代の背景があるとは本当に意外だった。
(つづく)