第8章 命が宿るプレゼント(その86)
「じゃあ、あの本、一体どうしたんだろう?」
祖父は、依然として納得がいかないようだ。
「・・・・・・。」
哲司は、祖父がそんなことにそこまで拘るのかが理解できない。
「あれだけ憧れていたのになぁ・・・。」
祖父は、哲司の母親の心境の変化が理解できないらしい。
「えっ! あこがれてた・・・って?」
哲司が思わず問い返す。
誰が、誰に憧れを抱いていたと言うのだろう。
そもそもがアニメである。
「いやな、哲司のお母さんは、“サザエさん”に出てくる磯野家がこの家と似てるって思っていたみたいでな・・・。」
「ん? この爺ちゃんの家と?」
「ああ・・・。両親と子供が3人ってところがだろうな・・・。」
「ああ・・、それはそうだね。カツオ、ワカメ、そしてタラちゃん・・・。」
「ん? そ、それは少し違うんだが・・・。」
祖父は笑いながら、そう指摘する。
「えっ! 違うって? ど、どこが?」
哲司は毎週見ているアニメだから、間違ったことを言っているとは思っていない。
「お父さんとお母さんがいるだろ?
えっと、確か名前は・・・。」
「波平と舟。」
「おぅ、さすがに、良く知ってるなぁ・・・。
でもな、その波平と舟の夫婦の子供は、サザエ、カツオ、ワカメで、タラちゃんは、そのサザエの子供なんだ。
つまりはだ、波平や舟から言えば、孫に当たるんだ。」
「あああ・・・、そうか、そうだった・・・。」
「だ、だったら・・・。」
哲司は可笑しなことに気が付く。今更ながらにだ。
「ん? どうかしたか?」
「サザエさんと、カツオ、ワカメは、随分と歳が離れてるんだねぇ・・・。」
哲司は、テレビの場面を思い出しながら言う。
確かに、アニメの中では、カツオやワカメがサザエのことを「お姉ちゃん」と呼んでいるのは頭にあった。
それでも、テレビを見ていて、その3人が兄弟だとは感じてはいなかった。
ひとつには、サザエが大人であって、カツオとワカメが小学生だったからだ。
「そ、そうだなぁ・・・。設定としては、サザエさんは20代前半なんだろうが、ま、それにしても相当に歳は離れているなぁ・・・。」
「おかしくない?」
哲司は、ありえないような気がして、そう言ってみる。
アニメの事だとは分かりつつもだ。
(つづく)