表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
746/958

第8章 命が宿るプレゼント(その85)

哲司も、悪知恵は働く方だった。

もちろん、そうした自覚があったわけではない。

ただ、何か窮地に陥ったとき、兎も角はその窮地から脱しようともがいてみせる。

その結果、浅はかではあるが、そのための知恵が思い浮かぶ事があった。

それをとっさに実行しただけだ。

それでも、哲司は、それは誰しもがやることで、僕だけが特別なんじゃない。

そうした自己弁護の気持も強かった。


ただ、そうして無理矢理に搾り出した悪知恵というものは、いずれは、と言うより、その直後にばれてしまうものだ。

その場しのぎで言い逃れて、ずっとそれが表面化しなかったことは一度も無い。

逆に言えば、だからこそ、そうなるのが分かっているからこそ、その場しのぎの言動に走るのだろうと思う。


その点が、やはり子供なのだ。

そして、それがあの“サザエさん”に登場するカツオ君とも共鳴する要素なのかもしれない。



「その漫画、見せて貰ったことが無いのか?」

少しの間があってから、祖父が訊いて来る。


「ん? そ、そのお母さんが持っていた本のこと?」

哲司も、一旦は別のところに頭が行っていたから、改めてそう確認をする。


「ああ・・・。」

「う、うん・・・。見たことは無い。」

哲司は本当のことを言う。

そうした記憶はなかった。

見せてもらっておれば、きっと、はっきりと印象に残っていた筈だろうと思う。

少なくとも、哲司の好きな漫画の本である。


「そ、そうか・・・。」

祖父は首を傾げるようにして言う。

信じられないとでも思っているようだ。


「捨てちゃったんじゃない?」

哲司は、単純にそう思って言った。

そうとしか考えようが無いからでもある。


「そ、そんな・・・。」

祖父は頭を大きく左右に振る。

それは無いと言っているようだ。


「お母さんの本棚にも、そんな漫画並んでいなかったよ。」

哲司は家で見た母親の本棚を思い浮かべて言う。

母親も結構読書家らしく、いろんな本が本棚に乗っていた。

料理の本もあれば、子育てに関する本もあった。

中には「こうすれば子供は賢く育つ」などというタイトルの本もあった。


もちろん、哲司はそこに並んでいる本を手にしたことは無い。

いずれも、哲司の興味を引くようなものではなかったからだ。

そこに“サザエさん”の本があれば、嫌でも目が行った筈だ。




(つづく)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ