第8章 命が宿るプレゼント(その84)
「哲司のお母さんだって、子供の頃、小遣いを貯めては古本屋で“サザエさん”の漫画本を買っていたものなぁ・・・。
20冊ぐらい持ってたんじゃなかったかな?」
祖父は、遠い昔を思い出すような顔で言ってくる。
「ええっ! そ、そうなの? お母さんが?」
「ああ、そうだ。本棚に綺麗に並べてた。
破れてたりしたところはちゃんとセロテープで補修してな。
そして、何度も読み返していた・・・。
今も、哲司の家のどこかにあるんじゃないか?
結婚するとき、その本は全部持って行ったからな。」
「ほ、本当に?」
「ああ・・・、そんなものをと言ったんだが、子供が出来たら見せてやるんだって言ってな・・・。」
「へぇ・・・。」
それでも、哲司は母親からその漫画を見せてもらったことは無い。
「お母さんは、ワカメちゃんのファンでな・・・。
それに、タラちゃんが可愛いって・・・。
よく、その絵を描いていたなぁ・・・。
漫画の本を下絵にしてな・・・。」
祖父には、その当時のことが鮮明に蘇るのだろう。
何とも懐かしそうな顔で言う。
「絵って・・・、そ、そのアニメを?」
哲司は、到底真似が出来ない。
「最初は、セロハン紙を漫画の上に置いてな、それを写し取るようにして縁取りをするんだ。
お母さん、小さい頃からそうした細かい事が好きでなぁ・・・。
で、今度はその縁取りをしたセロハン紙を画用紙の上に置いて、それを少し力強くなぞるんだ。
するとな、画用の上に、漫画の縁が押されたように浮き上がってくる。
それに、今度は色を塗っていくんだ。」
「上手だった?}
哲司はその点が気になる。
自分にはそうした才能が無いと知っていたからでもある。
「ああ・・・、そうだな、結構上手だった。
でも、そうして描いた絵を宿題の代わりに提出して、学校の先生に叱られたこともあったなぁ・・・。」
「うふっ!」
哲司は思わず吹き出す。
「ん? 今の哲司と同じか?」
祖父は笑いながら言ってくる。
「そ、そんなぁ・・・。」
そうは答えたものの、母親も子供の時には、それなりの悪知恵を働かす事もあったんだと知って、ちょっぴり嬉しくなったりする。
家に戻ったら、一度この話をしてみたいと思った哲司である。
(つづく)