第8章 命が宿るプレゼント(その83)
「ん? ヒーローがいない?」
哲司は、祖父の言葉を繰り返すようにして確かめる。
確かに・・・、そう言われればそうかもしれない。
そう思う。
特にカッコ良い主人公が出てくるわけではない。
戦闘などのアクション場面があるものでもない。
それこそ、どこにでもありそうな家族の生活が描かれているだけだ。
その題名からも分かるように、主人公は「サザエさん」なのだろう。
それでも、毎週のように見ていて、それを実感することは殆ど無い。
どちらかと言えば、哲司は「カツオ」が好きだ。
今の哲司よりは学年が上の5年生だが、勉強が苦手で、遊びは大好き。
そうしたキャラクターが自分とどこか重なるものを感じるからだろう。
言わば、親近感が沸くのだ。
だから、見ていても、カツオの心情に入り込んでいる。
カツオが叱られるとそれに同情をし、何か失敗をすると、「そ、そんなこともあるよな」と味方をしたくなる。
そんなカツオと会いたくて、毎週見ているような気がする。
「題名は“サザエさん”なんだが、実は、あの漫画は磯野家という家族を描いたものなんだ。
つまりは、一般庶民の家庭を描いているんだ。」
祖父が説明してくる。
「一般ショミンって?」
「そうだなぁ・・・、ごくごく普通の家族ってことだ。
その家族の日常を淡々と描いている。」
「・・・・・・。」
「言うなれば、どこのどんな家庭にもあることをひとつひとつ丁寧に取り上げているってことだ。
それが、50年以上も人気を保っている最大の理由だろうと思うな。
しかも、年代を問わずってところが凄い。」
「・・・・・・。」
「哲司のような子供ばかりじゃあないんだぞ。あの漫画を見ているのは・・・。」
「ああ・・・、そ、そうか・・・。」
哲司は思い出す。
哲司の母親は口うるさい方だ。
勉強に関してもそうだが、テレビを見ることについても、いろいろとイチャモンを付けて来る。
「そんな漫画ばっかり見て・・・」「いい加減にしなさい」とかだ。
それなのに、この「サザエさん」だけは、哲司と同じように黙って見ていることが多かった。
決して、「テレビを消して」とは言ってこなかった。
今までは、そのことを特に意識はしなかったが、今の祖父の話を聞いて、何となく納得できるものを覚えた。
(つづく)