第8章 命が宿るプレゼント(その81)
「今の言葉で言えば、“カッコ良いヒーロー”だな。」
祖父は、切り捨てるようにそう言った。
「ヒーローって?」
哲司はその言葉の意味を知らない。
「そうだな、単純に言えば英雄。分かり易く言えば“カッコ良い主人公”だ。」
「・・・・・・。」
「もちろん、そうした主人公になりたいと願うことは決して悪いことじゃない。
でもな、誰もがそうした“カッコ良い主人公”になれるものでもない。」
「・・・・・・。」
「ほら、哲司、テレビでやってる漫画に“サザエさん”ってのかあるだろ?」
「う、うん・・・。よく見てるよ。」
「面白いか?」
「う~ん・・・、そ、そう特別にとは思わないけど・・・。
でも、カツオって子は好きだよ・・・。」
「ああ・・・、カツオなぁ・・・。
そうだな、哲司に近い歳だものなぁ・・・。」
「でも、あの子達は、いつまで経っても同じ学年なんだよね。
どうして、進級しないんだろって思う・・・。」
「あははは・・・。なるほどなぁ・・・。」
祖父は、意外なことを言われたような顔をする。
「あの漫画は、昭和21年と言うから、戦後間もなくして九州の福岡で描き始められた夕刊新聞の4コマ漫画が最初なんだ。」
「えっ! そ、そんなに古いの?」
「ああ・・・、で、幾つかの新聞を渡り歩いた後、確か昭和26年からだったと思うが、朝日新聞という全国紙の朝刊に載るようになったんだ。
で、それから20年以上も書き続けられたんだぞ。」
「そ、そんなに・・・。」
「ああ・・・、そのくせ、その間、あの家族は殆ど歳をとってないなんだ。
カツオはずっと小学生だ。」
「へぇ~・・・、そ、そうなんだぁ・・・。」
「で、確か昭和49年だったかに休載になったんだが、その後、結局は復活しなかった・・・。」
「じゃ、じゃあ、僕が生まれるよりずっと前に?」
「ああ、そうなるな。
哲司が生まれたのが昭和61年だしな。
それより10年以上も前に終わっていた漫画だ。」
「そ、それなのに・・・、今も?」
哲司にはそれが不思議だった。
もうそんな昔に終わっている漫画なのに、テレビでは今でも放送している。
(つづく)