第8章 命が宿るプレゼント(その80)
「哲司がそうなのかどうかは分からないが、テレビなんかの報道によると、今の子に“将来何になりたいか?”って訊くと、プロ野球選手、プロゴルファー、プロサッカー選手、歌手、タレント・・・なんかが上位に来るそうだ。」
祖父はその時のテレビを思い出すように言う。
「そ、そうだね・・・。僕のクラスでもそうなのかも・・・。」
哲司は、そうした話題が教室内で話されたときのことを思い出す。
個別の順位は別にして、大凡、そんな答えが多かったように思う。
「哲司は、そうじゃないのか?」
「う~ん・・・、僕は無理だと・・・。」
「ど、どうして、そう思うんだ?」
「だ、だって・・・。」
哲司は、その答えを持ち合わせていない。
それでも、そうした職業に就けるとは毛頭思っていないのは事実だった。
「哲司は、その点、醒めてるのかなぁ・・・。」
「冷めてる?」
哲司は、料理の温度のことのように思った。
つまりは、「熱くは無い」とだ。
「ああ・・・、それだけ冷静に物事を見られているってことだ。」
「ん?」
哲司は、褒められているのか、貶されているのかが分からない。
「テレビの影響が強いんだろうな?
今の子供がなりたいと言っている職業ってのは、そのいずれもがテレビの人気者だ。」
「う、うん・・・。」
「でもなぁ・・・、爺ちゃんに言わせると、そのいずれもが“自分中心”なんだな。」
「自分中心って?」
「つまりは、自分がそうなりたいって思うだけで、それが誰かの役に立つっていう視点がない。
自分が有名になりたいだけだってことだ。」
「・・・・・・。」
「一昔前、そうだな、哲司のお母さんが子供の頃は、学校の先生や幼稚園の先生、お医者さんや看護婦さんになりたいってのが多かった。
果ては、優しいお母さんってのもあった。」
「ええっ! お母さん?」
哲司はまさかそんな答えがあったとは思えなかった。
「つまりはだ、子供の周囲にいて、自分たちに優しく接してくれる、そうした身近な存在に憧れたんだろうな。
だから、自分もそうした優しい大人になりたいって思ったんだろう。」
「う~ん・・・。」
「今の子は、そうした視点に欠けている。」
「?」
「身近な人ではなく、テレビに映し出される遙か遠くの人の姿ばかりを見つめている。」
祖父は、如何にも苦々しそうな顔で言う。
(つづく)