第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その32)
「そ、相談って・・・・・・。」
哲司の頭の中が真っ白になっていく。
俺が原因なら、そのお腹の子が俺の子なら、確かに、そうした相談をされるのは当然だろう。
で、でも、それは違うだろ?
どうして、そんなこと、俺が相談されなきゃいけないんだ?
哲司はそうは思うものの、じっとこちらを見ている奈菜の視線から逃れる気持にはなかなかなれない。
「さっき聞いたことなんだけれど、それって誰の子か分らないんだろ?」
さすがに哲司も声のトーンが小さくなる。
「うん・・・・。でも、私の子であることは間違いじゃないし・・・。」
奈菜は両手で自分の腹部を両脇から撫でるような仕草をする。
「まぁ、それはそうなんだろうけれど・・・・。」
哲司は、奈菜の言葉にショックを受けた。
一連の話をマスターから聞いた。
事実として、そのようなことが不幸にもあって、その思わぬ結果として「妊娠」していることが判明した。
まさに、弱り目に祟り目である。
どうやら警察に届けた様子は無いから表立っての刑事事件にはなっていないようだが、聞いた話が事実なのであれば、それは明らかに犯罪である。
そして、奈菜は、高校生なのに、その犠牲者、被害者となってしまったのだ。
警察に届けるかどうかは別にしても、こうした事件での被害者はできるだけそのダメージを少なくしようと考えるはずだ。
まだ若いのだし、少しでも早くその傷を癒して、元の生活に戻るよう努力するだろう。
そして、その事実を知った家族も、本人の意思を尊重しつつも、一刻も早く忘れることを望むのではないか、とも思う。
哲司は、この喫茶店には店長に呼び出されたから来たのだ。
自分から、奈菜のことを聞かせてくれと言った覚えも無い。
それなのに、騙されて、意識の無い状況で暴行をされ、そして妊娠したことまでを聞かされた。
そして、その上で、
「奈菜と付き合ってみてやって欲しい」と言われたのだ。
哲司にそれを断る理由は無かった。
そうした嫌な過去を少しでも早く忘れるためには、取り敢えずでも「次の恋」が有効なのは男の経験としても理解が出来るものだ。
「取り敢えずの恋人」。
それが、哲司が一連の話から得たイメージだったのだ。
(つづく)