第8章 命が宿るプレゼント(その78)
「あっ! そ、そうだね・・・。」
確かに・・・と哲司は思う。
お米が綺麗になったんだろうと思った。
「こうなったらだ、これでこのまま30分ほどほっておくんだ。
時間を覚えておいてくれ。」
祖父は、そう言いながらも、自分で時計を確認する。
「冬の時期だと1時間ぐらいだが、夏場だとその半分で良いんだ。」
「ど、どうして?」
「う~ん、それは爺ちゃんも知らん。
でもな、どうもこうしてしばらく置いておくことで炊きあがりが違うんだな。
ぐ~んと旨くなるんだ。」
「へぇ~・・・、そうなんだ・・・。」
哲司は、そう言ったものの、そのことを納得したからではなかった。
何でも知っていると思った祖父が、如何にも簡単に「爺ちゃんも知らん」と認めたことに対しての「へぇ~、そうなんだ・・・」である。
祖父でも知らないことがあるんだいう事実に、そして、それを至極当たり前のように「知らん」と口にする祖父に驚いた結果でもある。
「ど、どうした? 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして・・・。」
祖父は気が付いたようだった。
目をパチクリする哲司の顔をじっと見てくる。
「べ、別に・・・。」
「何だよ、何か言いたいことがあればちゃんと言えよ。
黙ってちゃあ、いつまで経っても伝わらんぞ。」
「う・・・、うん・・・。」
「何だ? 言ってみろ。」
「う~ん・・・、爺ちゃんでも知らないことがあるんだって・・・。」
「あははは・・・。当たり前だ。」
「ん? 当たり前?」
「ああ、そうだ。人間、何でも知ってるなんてのはいない。」
「が、学校の先生でも?」
「もちろん、先生でもだ。だから、皆、一生勉強するんだ。」
「一生って・・・。」
哲司は、気が遠くなる思いがする。
今でも勉強と聞けば寒気がするのに、それを一生していくだなんて・・・。
そう思ってしまう。
「でもな、大切なことは、そうして勉強するってことが、その後に生かせてこそなんだ。」
「ん? ど、どういうこと?」
「勉強ってのは、単に知識を吸収するってことだ。
もちろん、そうしたいろんな知識を知るってことは大切なんだが、もっと重要な事は、そうして勉強した知識を、自分のためだけじゃなく、人のため、社会のために上手に生かしていけるかどうかなんだ。
それが出来るかどうかで、その人の価値が決まってくる。」
「人の価値・・・。」
哲司は、その言葉を口の中で繰り返してみる。
(つづく)