第8章 命が宿るプレゼント(その77)
「で、さっきと同じだな。
2~3回かき回してから、今度は少し米を揉むようにする。
こうだな・・・。」
祖父は、そう言いながら実際にやって見せる。
「もむって?」
哲司には、その感覚が分からない。
「そ、そうだなぁ・・・。
おお、哲司、もっと小さい頃、爺ちゃんの肩をもんでくれたろ?」
「う、うん・・・、そうだったね。」
「あれと同じかな?」
「肩と同じ?」
「ああ・・・、強すぎもせず、弱すぎもせずってところか・・・。」
「へぇ~・・・、そうなんだぁ・・・。」
哲司は、軽く手を握る事でその感覚を思い出している。
「で、満遍なく揉んだら、また、この水はこのボールに入れる。」
「こんなにあるのに、まだ入れるの?」
「ああ・・・、ほら、こうして白く濁ってるだろ?」
「う、うん・・・。」
哲司にも、お釜の中の水が白く濁っているのははっきりと分かる。
「こうして濁っている水が大切なんだ。」
「ん?」
その用途が分からない哲司は、またまた首を傾げるようにする。
「これで、顔を洗うの?」
そうは言ってみたものの、この祖父の家に来て、こんな濁った水で顔を洗った記憶は無い。
「いや、顔も綺麗になるが、もっと綺麗になるものがあってな。」
「綺麗に?」
「それは後で教えてやる。」
「う、うん・・・。」
哲司はどうにもお預けを食った犬のような心境だ。
「この作業をもう2回ぐらい続けるとな・・・。」
祖父は、そう言ってまた同じ作業を繰り返した。
今度は、いちいち説明をしなかった。
そして、また濁った水をボールの中へと入れる。
それで、ほぼボールの水が一杯になる。
「も、もう入らないよ。零れてる。」
哲司は、気になっている水のことを言う。
「ああ、もう良いだろう。そんなもんだ。」
「・・・・・・。」
哲司は言われている意味が分からない。
「ほらな、もう今度は殆ど濁らないだろう?」
次に同じ作業をした祖父がお釜の中を見せてくる。
(つづく)