第8章 命が宿るプレゼント(その76)
「よ~し! その意気だ。」
祖父は、改めて笑顔を作ってくる。
「えっと・・・、どこまで話したっけ?」
祖父は惚けたトーンで言う。
「お米が流れないように、手で受けるってところまで・・・。」
哲司がそう説明をする。
たった今聞いたばかりのことだ。
「おう、そうだったな。
で、1回目は、さっとやって、この水はここに入れる。」
祖父は、先ほど使っていたボールの中へとその水を注ぎ込む。
「ん? そのお水って、捨てないの?」
哲司は当然のことのように訊く。
汚れている米を洗ったんだから、その水は捨てるのが普通だろう。
そう思ってのことだ。
家でも、確か、母親はそのまま流していた。
「ん? もったいないだろ?」
祖父は、首を傾げるようにして答えてくる。
「これはこれで、ちゃんとした使い道があるんだからな。」
「えっ! 汚れた水なのに?」
そう言いながらも、哲司は、午前中の場面を思い出していた。
そう、竹を洗った後の水を畑や垣根の傍に撒きに行った。
「畑に撒くの?」
哲司が訊く。
「あははは・・・、そうじゃないんだが・・・。」
「だ、だったら?」
哲司は、その使い道が気になって仕方が無い。
もちろん、どうしてなのかは自覚も無い。
「それで顔を洗っても良いんだぞ。」
「ええっ! こ、このお水で?」
「ああ・・・。」
「で、でも・・・、こんなに濁ってるよ。」
「それが良いんだ。これを元に造られた化粧品があるぐらいだしな・・・。」
「へ、へぇ~・・・、化粧品?」
哲司は、母親の顔を思い出す。
「で、またここに水を入れる。」
祖父はまた水道蛇口を捻って言う。
哲司の疑問を楽しんでいるかのような言い方だ。
「で、大体これぐらいで良いんだ。」
祖父はお釜の中の水の状態が哲司に見えるように手をどけて言ってくる。
(つづく)