第8章 命が宿るプレゼント(その75)
「実際にやってみて、その結果、“これは結構難しい”って思うのは構わない。
それが、実際にやってみた感想なんだからな。」
祖父の顔から笑顔が消えていた。
「実際にやってみてこそ、やり方やその難しさが身体で感じられる。
それなのに、哲司は、いつも、やる前から弱音を吐く。」
「・・・・・・。」
「違うか?」
「ううん・・・、そのとおりかも・・・。」
哲司は認めざるを得ない。
「ど、どうしてなんだ?」
「ど、どうしてって・・・、言われても・・・。」
「爺ちゃんは、哲司は出来る子だと思ってるんだ。」
「・・・・・・。」
「ただ、自分が納得しない限り、前に踏み出そうとしない。
だから、他人より、一歩遅くなる。
それだけなんだと・・・。
時間を掛ければ、何でもちゃんとやれる子なんだ。」
「・・・・・・。」
「爺ちゃんの孫なんだぞ。
この爺ちゃんと同じ血が哲司にも流れてるんだ。
出来ない訳がない。」
「・・・・・・。」
「良いか? 爺ちゃんだって、婆ちゃんが死ぬまでは、こんなこと、出来はしなかったんだ。」
「えっ! そ、そうなの?」
「ああ・・・、そのとおりだ。婆ちゃんに全部任せてたからな。
でも、婆ちゃんが死んで、爺ちゃんひとりになった。
誰も、こうしたことをしてくれなくなった。」
「・・・・・・。」
「だったら、もう自分でやるしかないだろ?」
「そ、それから覚えたの?」
「ああ、そうだ。
その時に、こうして手取り足取り教えてくれたのが、あの丸子ちゃんちの婆ちゃんだったんだ。
その当時は、まだ自分で動けてたしな・・・。」
「へ、へぇ~、あのお婆ちゃんが・・・。」
「な、だから、やろうと思う気持さえあれば、何だって出来るんだ。
だからこそ、哲司にこの釜で炊いた飯で握り飯を作って欲しいんだ。
それが、あの婆ちゃんへの恩返しにもなる。」
「そ、そっかぁ~・・・。」
哲司は、何故かしら、やる気が起きてくる。
「わ、分かった・・・。やってみる。」
哲司は、珍しく自分からそう言った。
それは、決していつものその場しのぎの気持からではなかった。
(つづく)