第8章 命が宿るプレゼント(その74)
「もう少し中央にだ。」
祖父は、哲司が置いた踏み台の位置を修正させる。
「こ、これぐらい?」
「ああ・・・、そんなもんだな。で、乗ってみな。」
「う、うん・・・。」
哲司が、踏み台の上に昇る。
「どうだ? お釜の中がちゃんと見えるか?」
「うん・・・、ちゃんと見えるよ。」
「よ~し・・・、だったら、これからやって見せるからな。
しっかりと見ておくんだぞ。」
「う、うん・・・、分かった・・・。」
哲司は大きく頷いてみせる。
「まずはだな・・・、これに水を入れる。」
祖父は、そう言って水道の蛇口を勢いよく捻った。
そして、お釜の中に水を注ぎ入れる。
で、米がすべて水の下に沈んだ頃を見計らって水を止める。
「最初は、さっと掻き混ぜる程度で、この水を捨てる。」
祖父は、そう言いながら、手はそのとおりに動かせていく。
2~3回かき回すようにした後、お釜を傾けて中の水を流していく。
「このとき、手をこうして当てるんだ。」
祖父が大きな手を見せて言う。
「ん? どうして?」
哲司が訊く。
「中の水を流せば、それと一緒に米粒も流れていくからだ。
そうならないように、こうして手で受け止めるんだ。
折角ちゃんと計った米が流れてしまったらもったいないだろ?」
「ああ・・・、そっか・・・。でも、難しそうだね。」
哲司は素直な感想を言う。
「大丈夫だ。哲司がやるときには、この下にザルを置いてやるから。」
「ええっ! そ、それ、僕がやるの?」
「もちろんだ。明日からは、哲司にやってもらう。だから、教えてるんだ。」
「う、う~ん・・・。」
「ん? どうした?」
「ぼ、僕にできるかなぁ?」
哲司にはまったく自信が無い。
「ほら、それが哲司の悪いところだ。」
「ん?」
「何でもそうだが、やる前から、“出来そうに無い”って思ってしまう。」
「・・・・・・。」
そう言われると、何ら反論が出来ない哲司である。
(つづく)