第8章 命が宿るプレゼント(その73)
「あははは・・・。なるほど、“洗う”・・・か・・・。」
祖父は楽しげに笑って言う。
「ち、違うの?」
哲司は、家で見ている母親の作業を思い出して言う。
洗剤までは使っていなかったようだが、どう見てもあの作業は「洗う」以外に表現のしようがないと思う。
「そ、そうだなぁ・・・。ゴミを取り除くってことだけを言えばそうなのかも知れんが・・・。」
「で、でしょう?」
「米を研ぐってのは、別の意味があるんだ。」
「別の?」
「ああ・・・、米には精米時に糠が付くんだな。
ま、最近はその精米技術も進んでいて、そんなには残ってないんだが、どうしても糠が残るんだ。」
「ヌカって?」
「簡単に言えば、米粒の皮だな。」
「米粒の皮?」
哲司は、そんなものがあるのかと驚く。
「ああ、それを取り除くことで今のような白い米になるんだ。
要は、この白い部分が実だってことだ。」
「お米の実ってこと?」
「ああ、そう言えるかも知れんな。
その皮を一緒に炊くと、独特の匂いがするんだな。
よく言うだろ? 糠臭いって・・・。」
「う~ん・・・。」
哲司はそんな言葉に心当たりは無い。
「それで、その皮を落とすためにするのが“研ぐ”って作業なんだ。」
「へぇ~・・・、洗うってのと、どこがどう違うの?」
「おお、良い質問だ。」
「・・・・・・。」
黙ってはいるが、哲司はそう言われてちょっぴり嬉しくなる。
「米を研ぐってのは、米粒と米粒を擦り合わせることからそう言われるようになったんだ。
庖丁などの刃物を研ぎ石で研ぐのと同じ原理だからだ。」
「ふ~ん・・・。」
哲司は、今の部分はもうひとつ理解できなかった。
それでも、そのことについてはこれ以上追うつもりはなかった。
何となくのイメージで理解する。
「実際にやって見せるから、哲司、あの踏み台を持ってこい。」
祖父は、隣の部屋にあった踏み台を顎で指して言ってくる。
「う、うん・・・、分かった。」
哲司は、踏み台を引きずってくる。
それに乗ることで自分が高まるような気さえする。
(つづく)