第8章 命が宿るプレゼント(その71)
だからと言って、哲司は「困った」とは思わなかった。
親戚である祖父は別として、哲司の周囲には60歳を超えるような老人はいなかったし、ましてや、ああして話をするようなことはなかった。
言わば、何もかもが初体験だった。
それでも、祖父が心配してくれたような拒絶感はなかった。
やはり、祖父や、死んでしまったがここでいろいろと世話をしてくれた祖母の影響が強くあったのだろう。
ただ、祖父が言ったように、あのお婆さんが哲司との会話をそんなに喜んでくれたという実感は持たなかった。
「哲司は聞き上手なんだ。」
祖父が言ってくる。
「ん? キキジョウズって?」
「う~ん、つまりは、相手が話しやすいように、上手に受け答えが出来るってことだ。」
「そ、そうなのかなぁ・・・。」
哲司は、どうやら褒められたらしいと分かって、照れ隠しもあってそう言う。
「ああ・・・、それは間違いが無い。爺ちゃんもそう思うからな。
それに何より、哲司は素直だ。」
「・・・・・・。」
「分からない事は、素直に聞き返してくる。」
「そ、それは・・・。」
「それは大切なことだ。」
「そ、そうなの?」
「ああ・・・、知らないことを教えてもらうってことは決して恥ずかしいことじゃない。
そうなんだが、大人になってくると、なかなかそうしたことに素直になれない。
プライドが邪魔をするんだな。
だから、素直に訊けない。」
「う~ん・・・。」
哲司はまだまだ子供だが、そうした人の気持は分かるような気がする。
今の哲司も同じことがあるからだ。
学校や家では、「ん?」と思っても、それをなかなか問い返せない。
「何だ、そんな事も知らないのか?」と言われそうな気がするのだ。
だから、その訊くタイミングを逸してしまう。
で、知らないままで前に進んでしまうのだ。
「その点、哲司はちゃんと訊いてくるだろ?
今だって、“聞き上手”って何だと訊いてきた。
それ自体が、それこそ聞き上手の第一歩なのかも知れんな。
素直な哲司がそのまま出てくるからな。」
「う~ん・・・。」
哲司は答えに困る。
確かに、祖父やあの丸子ちゃんちの婆ちゃんであれば、何でも訊けそうな気はする。
それでも、それがどうしてなのかが自分でも分っていないからだ。
(つづく)