第8章 命が宿るプレゼント(その70)
「そ、そうなのかなぁ・・・。」
哲司は自信は無い。
もちろん、最初からそうしたつもりもなかったからでもある。
「丸子ちゃん」という名前の犬がいる。
まずは、そのことに興味があった。
駐在所のお巡りさんと祖父との会話で出てきた話だった。
最初は犬だとは思わなかった。
お巡りさんが「丸子ちゃんちに行く」と言っていたからだ。
哲司は、てっきり女の子だと思った。
名前がテレビアニメのキャラクターと同じだったから、まさにそれを連想したのだ。
ところが、よくよく聞いてみると、どうやらそれは人間ではないと言うことが分かる。
ある一人暮らしのお婆さんが飼っている犬だと知れる。
それでも、そのアニメから連想するものがあったのだろう。
哲司は、その犬に会ってみたくなった。
だから、お巡りさんに付いて行ったのだ。
その時点では、お婆さんには興味も関心もなかった。
それが正直なところだ。
「それは、爺ちゃんにとっても嬉しいことだった。」
祖父は重ねて嬉しそうに言う。
「?」
「本当のことを言えば、実は、心配だったんだ。」
「ん? 何が?」
哲司が問い返す。
「あの婆ちゃんとうまく話せるんだろうかってな・・・。」
「ぼ、僕がってこと?」
「ああ・・・、初めてだろ? ああして、寝たっきりの婆ちゃんと話すのは・・・。」
「う、うん・・・、それはそうだったけれど・・・。」
「驚かなかったか? 嫌じゃなかったか?」
「う、う~ん・・・、少しは驚いた・・・。」
「そ、そうだろうな。それが当然だろう。」
「・・・・・・。」
哲司は、その場面を思い出す。
連れて行ってくれたお巡りさんが一緒だったことも幸いしたのだろう。
それほどの抵抗感は抱かなかった。
それに、最初に迎えに出て来てくれたのが、あの「丸子ちゃん」だったってことも大きかった。
だからかもしれない。
意外とすんなりお婆ちゃんと挨拶が交わせた。
やはり、問題はお巡りさんが帰ってからだった。
祖父が「後で迎えに行く」と言っていたものだから、当然に、そのお巡りさんと一緒に出る訳には行かなかった。
で、哲司だけがそこに残った。
(つづく)