第8章 命が宿るプレゼント(その69)
「う、うん・・・。」
哲司は大きく頷く。
「人間ってものは、ひとりじゃあ生きて行けない。
常に、誰かの助けを受けて、そして、誰かを助けて生きてるんだ。」
祖父は、ボールに移していた米を釜の中へと入れながら言ってくる。
「ぼ、僕も?」
そうだろうとは思ったものの、哲司は改めて確認をする。
誰かに助けられているという意識はあっても、誰かを助けているという実感はなかったからだ。
「も、もちろんだ。
まあ、哲司はまだ子供だから、助けるより助けられる方が多いんだろうが、それはそれで良いんだ。
その分、哲司が大人になったときに返せば良いんだから。」
「大人になってから?」
「ああ、誰かを助けるってことは、大人でなければ出来ないことは多いが、逆に、子供でなければ出来ないことだってある。
何も、背伸びをして、今、無理をすることはない。
だから、哲司も、自分が出来ることで良いんだ。
何か、誰かのために自分が出来ること。それを考えるだけで良い。」
「う~ん・・・、難しいんだね。」
哲司は溜息が出そうになる。
「いや、そんなことは無い。
今日だって、哲司はちゃんと人の役に立ったんだから・・・。」
「ん? お手伝いをしたってこと?」
「まあ、それもあるが、あれはあくまでも哲司がやるべき仕事だ。
人のためって言うより、自分のためでもある。」
「じゃあ?」
「哲司、丸子ちゃんちに行ったろ?
そして、婆ちゃんの話し相手をしただろ?」
「う、うん・・・。」
「それが、そうだ。」
「ん? 別に、何にもしてないよ。お手伝いも何も・・・。」
「そう、それで良いんだ。その気持が大切なんだ。」
「ん?」
「あの婆ちゃんは、哲司が話し相手になってくれたことが一番嬉しかったんじゃないかな?」
「えっ! そ、そうなの?」
「ああ、後から爺ちゃんも行ったろ?」
「う、うん。」
「その時、婆ちゃんの顔を見て、それが良く分かったんだ。
爺ちゃんも時々行って話し相手をするんだが、今日みたいな笑顔を見たことは無い。
それだけ、嬉しかったんだと思うぞ。」
祖父は、目を細めて言って来る。
(つづく)
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