第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その31)
奈菜は、喫茶店に入ってくるなり、辺りをぐるりと見渡した。
店の中の状況を把握したようだった。
他に多くの客がいるようであれば、やはり話しづらいものがあるのだろう。
それからおもむろに一番奥の席にいたマスターに向って歩いてくる。
「ちゃんとお話はしたからね。」
マスターが奈菜に向ってそう言い、自分が一旦席を立つようにして、その奥側へ孫娘を座らせる。
奈菜は、哲司の顔をチラッと見てから、ちょこんと頭を下げた。
恥ずかしいのか、少し頬が紅い。
哲司は、そうした様子を見ていて「可愛いな」と思う。
先ほど、店長とこのマスターから「妊娠に至る経過」を聞かされた。
事実としては大まか理解はしたつもりだったが、目の前の奈菜を見る限りにおいては、最初のあの「釣銭事件」の時と同じで、初々しく見えるだけである。
とても「妊娠をしている」身体だとは思えない。
「大丈夫なの?」
哲司がそう声をかける。
そのタイミングを計っていたのか、マスターが間髪を入れないで席を立つ。
「奈菜はいつもの通りでミルクティーか?」
孫娘に何かを入れてやろうというつもりらしい。
これまたすぐさま奈菜が首を横に振る。
「お爺ちゃん、オレンジジュースある?」
「ああ。」
「だったら、それにして。」
「わかった。オレンジジュースだな。」
哲司はそのやり取りを黙って聞いていたが、いつもはミルクティーを飲むのに今日はオレンジジュースにしたのも、できるだけ女の子らしく見せたいからなのだろうと思った。
つまり、それも奈菜の演出なのだろうと。
ところがである。
「どうもつわりが始まったみたいで・・・・。」
奈菜がそう言ったのだ。
そう言えば、そんなことを聞いた記憶もある哲司である。
妊娠して1ヶ月ほどすると「つわり」という症状が出るらしい。
主に吐き気を催すものらしいが、それで初めて妊娠に気づく人もいるらしい。
だが、それ以上の知識は無かった。
「子供、どうするつもりなの?」
哲司は「つわり」という言葉を聞いて、「妊娠している」という現実に直面した気がする。
「・・・・それを相談したかったの。」
驚くべき奈菜の言葉である。
(つづく)