第8章 命が宿るプレゼント(その67)
「ん? ど、どうして?」
哲司は、祖父が笑ったことが気にかかる。
「爺ちゃんが、それ違うからやり直せって言ったら、哲司は腹が立ったろ?
きっと、どうしてよ!って思っただろ?」
祖父は、改めて言ってくる。
その顔からは笑顔が消えていた。
「う、う~ん・・・、そうかもしれないけれど・・・。」
哲司は、それを否定はできない。
仮に、やり直したにしても、きっと膨れっ面だったとは思う。
家だと、殆どそうしていたからだ。
「さっきも言ったが、人間は間違ったりするものだ。
それをいちいち責めたりするべきじゃあない。
ましてや、本人がその間違いに気が付いていない場合は、なおさらだ。」
「・・・・・・。」
「頭ごなしに、それは違う!と言われたら、哲司でなくっても、例えこの爺ちゃんでも腹が立つ。
な、そうだろ?」
「う、うん・・・。」
哲司は、ちゃんと肯定する。
「だからな、爺ちゃんは、哲司に、自分が確かに間違っていたってことに気が付いて欲しかったんだ。
で、それを元に戻さないで、こうして別の鍋に、もう1回入れてもらったんだ。」
「・・・・・・。」
「どちらも、哲司がやったことだ。
もちろん、間違おうと思って間違う馬鹿はいない。
懸命にやったのに、そうして結果として間違うってことがあるんだってことを知っておいて欲しかったんだ。
爺ちゃんが言ってること、分かるか?」
祖父は、ゆっくりとした口調で話してくる。
「う、うん・・・。」
哲司も、それは良く分かる。
「で、後から鍋に入れた方が正しかったんだな?」
「う、うん。」
「それは、どうしてなんだろうな?」
「う~ん・・・。」
哲司は、それには答えられない。
「どちらも、哲司としては、ちゃんと数えていたつもりだろ?」
「うん。」
「それなのに、結果はこうして違うことになった。
それはな、きっと、哲司がどれだけ真剣にやれていたかの差なんだと思うんだ。」
「し、真剣?」
「ああ・・・、難しい言葉で言えば、どれだけ集中出来ていたかだ。」
祖父は、先ほどのチラシの裏に、「集中」と書き込んで哲司に見せてくる。
(つづく)