第8章 命が宿るプレゼント(その66)
「そうだったな。こっちが約900グラムで、そっちが約1050グラムだったものな?」
祖父は、ふたつのボールを順に指し示しながら哲司に確認させるように言う。
「う、うん・・・。」
哲司はチラシの裏に書き込んだ数字に視線を戻して頷く。
「と、言うことはだ。哲司が最初に計ってお釜に入れた米は6合ではなくって、もう1杯多い7合だったってことだ。」
「う、うん・・・、そうだったんだねぇ・・・。
で、でも、爺ちゃん、僕が入れる回数を数えていたの?」
「ん? どうしてだ? 爺ちゃん、そんなことはしちゃあいないし、そんな暇でもない。」
「だ、だって・・・。」
哲司は、言葉に詰まる。
「ああ・・・、お釜の中の米を見て、本当にこれが6合かって疑ったからか?」
祖父は、その場面を追い出すように言う。
「う、うん・・・。どうして、僕が数え間違いをしているのが分かったの?」
「あははは・・・、それは長年の経験からだ。
つまりはな、ぱっと見たとき、“ん? こりゃあ少し多いぞ”って思ったんだ。」
「ど、どうしてそんなことが分かるの?」
「う~ん・・・、難しいことを訊くなぁ。
強いて言えば、明確な根拠なんて無い。
単に、そう感じただけ。勘と言えるのかも知れんな。」
「か、勘?」
「ああ、そうだ。日々、同じことを繰り返していると、少しでも違うと、そうしたものに違和感を感じるんだ。」
「イワカンって?」
哲司は、その言葉が分からない。
「そうだな、少し変だぞ、いつもとは違うぞって感じることだ。
哲司だって、間違って、友達の靴に足を突っ込んだら、“ああ、これ、僕の靴じゃない”って感じるだろ?」
「う、うん・・・、それは分かる。」
「いつも履いている靴とまったく同じ大きさでも、自分の靴でなければ、ぐに感じれるもんだ。
それと同じで、米6合をいつもの釜に入れたとの感じが少し違ってたんだ。
だから、きっと哲司が数え間違ったんだろうって思っただけだ。」
祖父は、指摘した経過をそう説明する。
「へぇ~・・・、だったら、そう言ってくれたら良かったのに・・・。」
哲司は、大人な態度でそう言う。
「ほう・・・、あのときに爺ちゃんがそう言ってたら、哲司はどうしたんだ?」
「う~ん・・・、きっと、やり直してた。」
「な、そうだろ? だから、あの時、もう1回やってみろって言ったんだ。
しかも、間違っていた分を残してな。」
祖父は、そう言って、どうしてかにやりと笑った。
(つづく)